なぜ物価高は続くのか
「緩やかなスタグフレーション」に包まれる日本経済

 物価高が止まりません(本原稿執筆時は10月)。特に、食料高が家計の重荷になっています。9月の消費者物価指数は、生鮮食品を含む食料が前年同月比9・0%プラスと高止まりしました。8月の8・6%から伸び率が拡大。猛暑による野菜の育成不良で、プラス幅は1976年9月の9・1%以来、47年ぶりの水準となりました。

 総務省が10月20日に発表した9月の消費者物価指数によると、生鮮食品を除く総合指数は前年同月比で2・8%上昇しました。

 消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は26%を超え、40年ぶりの水準に跳ね上がりました。食費は生活に欠かせない消費品目のため、一般的にエンゲル係数の上昇は生活水準の低下を示すとされます。したがって、食料高の影響は、低所得者層ほど大きいのです。世帯年収別のエンゲル係数を見ると、8月は年収1145万円を上回る世帯は25・9%。対する年収402万円を下回る世帯は31・0%と高く、ほかの消費に回す余裕は乏しいと思われます。

 では、生活防衛意識はどうでしょう。8月の家計調査で2人以上の勤労者世帯を見ると、食料や家賃などの基礎的支出は前年同月比で実質6・8%減らしています。娯楽などの選択的支出は7・1%減と結構がまんしているのです。

 また、物価高による賃金目減りに加え、高齢化による社会保障費の膨張も重荷になります。2人以上の勤労者世帯の1カ月の社会保障費は2022年に6万7175円と、この20年間で38%増えました。世帯の実収入は、この間に14%ほどしか増えていません。実にトホホな状態です(日本経済新聞、10月21日)。

 8~9月の経済指標を眺めるだけでもこんな調子です。とくに個人消費は4年前の水準にさえなかなか回復できず、中期的にはマイナス成長のままです。コロナ前に比べて人や原材料が不足しがちになった結果、物価上昇と低成長が同時に引き起こされている、というのが実状でしょう。

 これは世界的な現象でもあります。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は8月の講演で、人手不足、エネルギー転換、地政学リスクなどの影響で、世界経済が供給制約に直面しやすい状況は長く続くだろうと指摘しました。

 日本はエネルギーと食料を輸入に頼ります。ウクライナ侵攻の影響などで世界的に高騰した資源・食料価格は中小企業や家計を直撃し、他の物やサービスに向かうはずだった購買力を奪います。そして、円安が物価を押し上げます。

 経済停滞(スタグネーション)とインフレーションが同時に起きることを、スタグフレーションと呼びます。2度の石油ショックが起きたころ使われた言葉です。今起きているのはそこまで急性のショックではありませんが、日本経済は内外の供給制約の影響を長く受け続ける可能性があります。(門間一夫「緩やかなスタグフレーション」日本経済新聞、2023年10月20日)

(U)

「中小企業家しんぶん」 2023年 11月 15日号より