第8回経営労働問題全国交流会【実践報告】
労使における今日的課題と経営実践
中同協経営労働副委員長 山田 茂氏(大阪)

8月31日~9月1日、第8回経営労働問題全国交流会が開催されました。中同協経営労働副委員長の山田茂氏の実践報告を紹介します。

 求職している面接希望者すら素通りする汚かった町工場が、今では毎年国内外から多くの人が見学に訪れる会社になりました。若い社員が胸を張って「何のためにこの仕組みを考えたか」を熱心に語り、自社を説明している姿を評価していただいています。今日は失敗経験も交えて実践してきたことを振り返りたいと思います。

社員との信頼関係と経営者の責任

 1999年に同友会に入会して、真っ先に経営指針成文化セミナーに参加しました。そこで入会前に課題だった社員との信頼関係が構築できていない原因が分かり、有言実行と言行一致の実行を誓い、さっそく経営指針の成文化と実践に取り組みました。

 企業の全機能の要は社員であり、社員の潜在能力が生かされることによってフルに発揮されます。そこに全力をかけるのも経営者の責任です。潜在能力が開花して目を見張るような成長をした社員を目の当たりにした時、人間尊重の経営の本質が腹に落ちました。

理解と納得の経営

 2001年に社長に就任した際に、公私混同しない、経理公開するという2点を宣言し、経営指針に基づいた経営実践にいっそう力を入れました。

 しかし、2009年にリーマンショックの影響で、決算では売上、利益ともに過去最高でありながら、2月から仕事がゼロという事態になってしまいました。会社を存続させるために決算賞与をなしにすることを決断したところ、幹部社員から「大変な状況は分かっています。ですが、社員も頑張ってきました。だから1万円だけでも支給してもらえませんか」という言葉が返ってきました。社員は「私たちは理解しています。しかしまだ納得いく説明はもらっていません」と言ってきたのだと気づきました。「理解と納得の経営」が大切だと気づいた瞬間でした。

リーマンショックと東日本大震災

 リーマンショックで売上が65%ダウンし、東日本大震災も重なって厳しい経営状況が続いて銀行の態度も一変、実抜計画の提出を求められました。厳しかった状況を切り抜けることができたのは、経営指針の継続的な実践でした。毎年、社員と銀行の支店長などを対象に決算報告会と経営指針の説明を欠かさずに行ってきたことが大きかったと思います。

 また、そんな中でも掲げたビジョンのために、新卒採用は続けました。今では、その時に入社した社員たちが成長して活躍してくれています。

「働きがいブラック企業」からの脱却

 自社では2016年ごろまで平日夜遅くや休日も工場が稼働しており、社員に対しては残業をしてたくさんの給料を稼いでいるから大丈夫だと考えていました。しかし、中同協経営労働委員会副委員長として「働く環境づくりのガイドライン」策定に参加したことで、労働環境改善について考えることから逃げていたことに気づきました。同友会で学んだことを実践できているつもりでいましたが、甘えがあったことを大反省しました。

さっそく残業を減らすために残業時間削減や有給休暇取得のセミナーを受講し、生産管理と品質管理の強みを生かした仕事の取捨選択に取り組みました。社員のとまどいもありましたが、結果として2022年度は2016年度と比べて残業時間は月平均24時間減、売上高23%増を達成しました。

最低賃金でシミュレーションすると

 最低賃金が過去最高額の引き上げとなり、最低賃金1500円は現実の課題となっています。自社の2019年の実績で、時給1500円になった場合の試算をしたところ、1200万円の黒字が1100万円の赤字となり、同様の利益を上げるには売上の2割、もしくは限界利益率を7%強上げる必要があることが分かりました。

 最低賃金が上がっても利益を出すためにどうしたらよいかという課題に対して積極的に取り組む姿勢を持ち、経営者として道徳的な言葉でごまかさずに、自社の経営状態について数字を用いて把握し、説明できなくてはいけません。

地域で同友会運動を展開していく

 地元の中学校に、働く意義をテーマに出前授業を行っています。参加した生徒から感想文をもらいました。「両親が毎日『仕事が大変。行きたくない』と言っているので、いっそニートになろうと思っていましたが、楽しいことがあるのならそのために仕事を頑張りたいと思いました」。これを読んで、ドキッとしました。就労人口の約7割が中小企業で働く日本、生徒の両親は中小企業で働いているかもしれません。仕事に行きたくないと言わせてしまっていることに、中小企業経営者として責任を感じます。

 中小企業の経済的、社会的存在意義を明確にして、より多くの人がそこで働く喜びと誇りを感じられるように、地域で信頼され、なくてはならない企業を増やしていく。同友会は「労使見解」を学び、経営指針の実践を通じた企業づくりで経済と地域を変革していく運動体です。その主体者は私たちなのだと自信を持って取り組んでいきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2023年 11月 15日号より