【わが社のSDGs】
地域の一員としてよい循環を生み出していく
㈱菜の花エッグ 代表取締役 梅原正一氏(千葉)

SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年を達成年限とし、「誰一人取り残さない」持続可能な社会の実現をめざす世界共通の目標です。新連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第8回は、(株)菜の花エッグ(梅原正一代表取締役、千葉同友会会員)の取り組みです。

 同社は1964年に養鶏と畜産を行う西野養鶏場として創業し、鶏卵を自社で販売するために地元の5つの養鶏場が集まって、1991年4月に(株)菜の花エッグを設立しました。設立の背景は1991年に卵のトレーサビリティが問題になったことで、餌の統一やヒナの飼育などに規格を定め、品質が保証された卵の生産が求められたためです。梅原氏は大学卒業後、農業派米研修生としてアメリカの農場で働いたのち、1989年に同社に入社しました。

「1年生たまご」

 2004年に鶏卵の生産調整が撤廃され、卵価の暴落が起こりました。当時、農協へ製品を卸していましたが、安定した販売量が保証されず、地元スーパーとの直接取引へ比重を移します。その際、独自販売力強化のため、地元の養鶏場と連携して、共販と需給調整を目的としたLLP菜の花フーズを設立し、プライベートブランド「1年生たまご」の販売を開始しました。

 鳥インフルエンザなどの影響により経営が赤字続きだった2005年、社長であった父から梅原氏が事業承継しました。「大量に効率よく生産することでコストを抑えるという先代の経営方針は通用しないのではないか」と疑問を抱いていた梅原氏は、友人から千葉同友会の「経営指針成文化セミナー」を勧められ、入会と同時にセミナーに参加しました。そこから、イニシャルコストがかかっても安定した生産や品質を求めるという経営方針に変え、作成した経営指針のもと環境経営に取り組み始めます。

「もの」ではなく「こと」の提供

 消費者に自社の卵を選んでもらうためには、商品選びの際に「楽しさ」を感じてもらうことが必要と考え、試行錯誤の結果、ラベルの裏に卵料理のレシピと「当たりくじ」を付けて販売しています。自社の卵を使うことが取引先の飲食店の集客にもつながるように、当たりくじを2枚集めて応募した方には、提携店で使える500円割引券をお送りしています。

 また、割引券のほかにアプリを開発(東京同友会会員企業)しており、パックのラベルに2次元コードを印刷し、それをアプリで読み込むことでポイントを貯めて、500ポイント貯まると提携店で使うことができます。現在では、飲食店に限らず同友会会員を中心にガソリンスタンドや花屋などさまざまな業種の店舗と提携し、地域内循環の促進につなげています。また、年に8回「ハレの日」を定め、季節のイベントに合わせたオムライスのレシピの提案などを行い、卵を通じてさまざまな楽しさを提供しています。

持続可能な社会の実現のために

 梅原氏は(株)ゼンケイという飼料メーカーの代表も務めており、ここで製造した飼料を使用して養鶏を行っています。

 鶏は与えた飼料のすべてを分解できるわけではないため、未消化栄養素がふんとして出てしまいます。そこで、飼料の無駄を防ぐために、鶏の消化を助ける酵素を含んだ飼料を(株)ゼンケイで製造しており、飼料原料の内容や摂取量の差なども考慮しながら工夫して製造しています。飼料穀物には千葉県産の飼料米を使用し、液卵工場から出る卵殻をカルシウム材として使用するなど、資源を有効活用しています。

 卵のパックはプラスチック製から紙製に変更を進めており、「ラベルをはがしやすくするなど、リサイクルしやすい仕組みに変えていかなくてはいけない」と梅原氏は話します。また、同社では一昨年からエコアクション21の取り組みを始め、今年認証を取得しました。取り組みの中で電気使用料が増加していることが分かり、CO2削減という観点から太陽光発電にも取り組み始めました。

まずは環境問題から

 同社は、以前は中途採用が主でしたが、10年前から高卒の新卒採用を始め、現在では社員の3分の1が新卒での入社となっています。社員全員を対象に自社商品や経営理念、環境経営についての勉強会を行い、エンドユーザーである消費者の声を聞くために産直の交流会を利用して自社や卵をテーマに勉強会を開催するなど、お客さまとの交流も深めています。

 SDGsにはウエディングケーキモデルという概念を表す構造モデルがあり、下から順に生物圏・社会圏・経済圏という3層構造となっています。梅原氏は「ウエディングケーキモデルの一番下に環境があるように、環境なくして社会や経済は成り立ちません。まずは環境を守ることから取り組みを始めるべきだと考えます」と語ります。

 食卓に安心できる「美味しさ」と「健康」を届けている梅原氏。地域の企業や消費者とつながりながら、持続可能な地域社会づくりへの挑戦は続きます。

会社概要

設立:1991年4月1日
資本金:2,000万円
社員数:34名(2023年3月現在)
事業内容:採卵養鶏業、鶏卵の生産、鶏卵の加工販売、液卵の加工販売、飼料の販売
URL:https://nanohana-egg.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2023年 11月 25日号より