日本は労働移動すれば生産性が下がる

 この30年間の日本では、経済を良くするためには労働生産性を上げること、そのために労働移動を活発にして、生産性の低い企業から生産性の高い企業へ労働者を移動させることが必要だと主張されてきました。しかし、データを見れば実態は逆になっています。労働生産性が上がると雇用が減る傾向が見られ、さらに、付加価値を上げないうえで労働移動をすると、労働生産性が下がってしまいます。労働生産性を上げるには労働移動ではなく付加価値を上げることが重要であることがわかります。 OECDの労働生産性の国際比較から日本の労働生産性指数と産業別雇用指数の変化(表参照)を見てみます。

 製造業の労働生産性指数は2001年71.3から2015年100まで上昇しているのに対し、雇用指数は2001年114.3から2012年97.3まで低下が続いています。建設業の労働生産性指数も2008年82.2から20年110.2まで伸びているのに、雇用指数は08年114.6から20年98.1まで低下しています。労働生産性の上昇に対し、雇用指数が減少していることから、製造業や建設業から他の業種に労働移動していると考えられます。

 労働者が増えている業種を見てみます。情報通信業は雇用指数が2001年83.1から20年114.8まで一貫して伸びているにも関わらず、労働生産性指数は2001年99.9から20年92.1へと低下しています。娯楽対個人サービス業は雇用指数が2001年93.5から19年107.9まで増加しているのに対し、労働生産性指数は2001年126.6から19年91.0まで低下しています。

 また、他の産業に比べると労働生産性が低い農林水産業は、一貫して就業者シェアの低下が続いているにも関わらず、生産性は2013年まで少し上昇したものの変わらず低いままです。

 日本では、労働移動によって労働生産性が下がる分野が増えるという結果を招いているのですから、労働生産性を上げる目標を掲げるより、すべての分野で付加価値を上げる目標を掲げた方が経済は良くなるということにならないでしょうか。

「中小企業家しんぶん」 2023年 11月 25日号より