【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】
人が差別化の源泉(前編)
(有)ウメイチ 代表取締役 梅田 益生氏(岐阜)

黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(有)ウメイチ(梅田益生代表取締役、岐阜同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

創業

 (有)ウメイチ(梅田益生代表取締役38歳、岐阜県瑞穂市、従業員63名―女性58名)は着物のレンタル、各種記念撮影(婚礼・宮参り・七五三・入学・卒業・成人式など)、撮影に伴う美容・着付け、和装小物のネット販売などを行っています。店舗ブランドは「プラム」で、プラム大垣店、同各務原店、同岐阜長良店、同岐阜六条店、同一宮店、また「コフレ」ブランドでコフレ一宮スタジオを展開しています。

 母体は(株)ウメショウで、1988年、レンタル事業に進出するためウメイチを設立、着物のレンタルと販売を始めましたが、このころがウメショウグループの最盛期で、ウメイチは20年間黒字と赤字を繰り返し、ウメショウや役員からの借り入れでしのぐ債務超過企業でした。そのウメショウも着物需要の縮小と、いわゆるバブルの崩壊とともに経営が悪化、ウメイチは廃業も視野に入れざるを得なくなりました。

廃業寸前からの発展、ビジネスモデル転換

 梅田益生氏は2010年に入社。当時の売り上げは1億円(2011年6月期)でしたが、2023年は4・9億円、24年は5・5億円を見込んでいます。13年間で売り上げは5倍以上に、社員も11名だったのが60名を超え、2015年には債務超過も解消、廃業寸前から劇的に発展しました。これをもたらしたのは入社2年目で行ったビジネスモデルの転換でした。

 ウメイチは着物の販売は縮小するとの見込みに立ち、ウメショウグループのレンタル部門として設立されましたが、販売も行っていました。梅田氏によると着物業界ではレンタルはそれで客を引き付け、販売に結び付けるものという意識が強く、ウメイチでもレンタルに専門化できず中途半端な業態に陥っていました。梅田氏は入社1年目に自ら営業活動を行い、レンタル需要の高まりに追いついていない着物業界の意識の遅れを実感、業態転換に踏み切ったのでした。

 レンタル専門化とともにフォトスタジオを併設しました。それまでの撮影は、白い幕を下ろす程度のスタジオで、カメラ素人の梅田氏がデジカメで撮るものでした。それを、専門のカメラマンを配置する本格的なスタジオにし、事業の柱の1つにしました。現在もそうですが貸衣装業者の多くはスタジオを持っていると言いながら撮影や美容・着付けは外注しています。

 着物レンタルとフォトスタジオによりウメイチは「呉服業」から「記念日のプロデュース業」に変身、経営理念として「記念日のプロデュースを通じて笑顔・感動・幸せの“和”を拡げます」を掲げました。ウメイチの第二創業と言えます。

客層拡大

 客層の拡大にも努力しており、5年前に「ママ振りパック」を開発しました。レンタルの平均単価は20万円で、日本人の所得が伸び悩んでいる中、負担を感じる世帯は少なくありません。この商品は母親の着物を持ち込んでもらったうえ、前撮り、当日着付け、ヘアメイク、クリーニングが合計6万3800円で済むもので、大ヒットしました。また、23年8月、当社の弱点である子ども向け市場を拡大するため、写真スタジオを運営している大手3位の企業が立ち上げた子どもに特化したスタジオ事業のフランチャイジーになりました。同社は成人式用の市場比率が高く、またコロナ禍が起きると打撃が大きく、市場構成のバランスをとる必要があります。

社員との溝

 業態転換に成功し、経営は黒字転換、梅田氏はよい企業になってきたと思っていました。ところが社員との溝が埋められていなかったことに気づきます。その溝は、2014年に長良に出店しようとした時、はっきり現れました。

 店長「せっかく黒字になったのになぜそんなリスクをとるのですか。私の店からはスタッフを出しません」、美容師「新店舗用のスタッフと思われるといけないので、やめさせてもらいます」、店長候補「店長には絶対になりません。店長をやるくらいなら辞めます」といった調子でした。梅田氏のリードでビジネスモデルは転換したものの、社員の変化への主体性はゼロで、社員にとって経営は他人事だったのです。梅田氏は銀行口座にお金がないこと以上に「ヤバイ」と思いました。

 仕方がないので梅田氏自ら店長になり、既存店からパート社員1名、新卒の新入社員1名、現地での採用社員2名で出発しました。この店は社長がリクルートしたメンバーばかりのため、毎週飲みに行くなどチームワークはよく、他店の年商が6000万、7000万円のところ9000万円に達しました。事実によって積極的な経営戦略の正しさ、結集した組織の強さを示したのです。理屈では説得されない人も事実によっては説得されます。

 この店から人も育ちました。パート社員は正社員、店長、マネージャーと昇格、さらにジェネラルマネージャーとして現在社長の右腕になり、社員の育成に携わっています。彼女はカメラマンを志向し、組織の管理は不得手だったのですが大きく変身しました。新卒の新人社員も現在マネージャーになっています。また、この店から他店の店長も出ており、ウメイチ全体の意識革新の核となりました。

(後編につづく)

会社概要

設立:1988年
事業内容:貸衣裳、各種記念撮影、撮影に伴う美容・着付
従業員数:63名
URL:https://plum-s.com/

「中小企業家しんぶん」 2023年 12月 5日号より