連載「わが社のSDGs」
「地域密着型IT企業」として社会課題を事業機会と捉え、地域と自社の発展をめざす
(株)アーティスティックス 代表取締役 長岡 善章氏(静岡)

SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年を達成年限とし、「誰一人取り残さない」持続可能な社会の実現をめざす世界共通の目標です。連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第9回は、(株)アーティスティックス(長岡善章代表取締役、静岡同友会会員)の取り組みです。

地域密着型IT企業

 長岡氏はもともとメーカーに勤め産業機械のシステム開発を行っていましたが、27歳の時に独立し、1人で有限会社として設立したのが現在の(株)アーティスティックスです。業務内容はホームページ制作や開発を中心としています。

 設立した当初は、IT人材の常駐派遣を行っていましたが、リーマンショックの影響を受けて自社で仕事を受注して開発を行う形に業態を変更。業態変更をしたことで経営に悩んでいた時、同友会会員に声をかけてもらい入会しました。沼津支部の副支部長と支部長を経験したことで、合意を得ながら組織運営を行うトレーニングとなり、自社経営に生きていると長岡氏は話します。

 また、経営指針を自分1人で作成して、それを社内に押し付けていたことで社員と衝突し、社員が退職してしまったこともありました。この時、すべて自分の指示通りに社員を動かすという考えでは、組織運営はうまくいかないということを身をもって学び、現在は社員にある程度裁量をもって働いてもらい、社員の自主性を尊重する社風ができあがりました。

 また、業態を変えたときに「地域密着型IT企業」というコンセプトを掲げました。地域密着型とはどういうことかを模索する中でSDGsという言葉に出合います。勉強会を開くなどして個人的に学び始め、学習を進めていくにつれて学んだことを自社に生かす必要性を感じ、2016年ごろからいち早くSDGsに関わる取り組みを始めました。

 同社は2016年ごろからWワークや在宅勤務などの多様な雇用形態を取り入れています。求人を出した際に、「育児や介護でフルタイムは難しいが同社で働きたい」という方からの応募があり、これをきっかけに在宅勤務での採用を始めました。システム開発経験者を中心に多様な働き方を可能にすることで、社員数を増やしていきました。

「『藻場要る』アプリ」の開発

 長岡氏は「沼津市少年少女発明クラブ」という小学4~6年生を対象に科学実験や工作を行う団体の事務局をしています。クラブの立ち上げに関わっていたことから自社の中に事務局を設け、長岡氏と社員1名が活動をサポートしています。月に1回クラブを開催しており、今期で3期目となります。

 また、ものづくりに触れてもらう機会の提供として、「ロボカップ・ジュニア静岡ブロック」の事務局も務めています。ロボカップとは、ロボットをプログラミングして自走させて行う競技で、全国大会や世界大会も開催されています。対象は小学3年生~中学3年生で、「プログラミングに触れ、面白いと思ってもらいたい。ものづくりの裾野を広げることが役割」と長岡氏は語ります。

 さらに、社員が地元の豊かな海を守る団体に所属しており、その活動を会社としても支援しています。その一環として「『藻場要る』アプリ」を開発協力しました。藻場とは海藻や海草が集まった場所のことで、稚魚が外敵から身を守る場であるなど海の中で重要な役割を果たしています。現在、藻場がなくなる「磯焼け」が問題となり、藻場の再生をめざした活動を行っていることから、その活動の後押しとなるようなアプリを開発しました。「『藻場要る』アプリ」はどこに藻場があり、どこに磯焼けがあるのかがわかる地図アプリです。アプリの登録者が海底の写真を投稿することで地図を作成します。世界地図になっているので、どこの海の藻場も登録することができます。今後は写真を解析して、海草の種類などを特定できるようにしたいと考えています。

今後の事業展開の構想

 社会課題を解決すると同時に、自社の利益にもつながるような活動を展開することが今後の課題です。現在検討しているのは、地域で社会貢献活動を行っている団体と自社のお客様をマッチングすることです。ホームページの制作・管理のため常に300社近くの地域企業と取引があるため、お客様に毎月の管理料の1%を団体に寄付してもらう仕組みを考案しています。地域にある団体をまとめた紹介ページを自社で作成し、お客様にはどこに寄付をするか選んでもらいます。いろいろな団体を知ってもらうことで、寄付以外の活動への参画や、団体の収益活動につながることを想定しています。また、自社について知ってもらう機会となることも期待しています。

 さらに、現在持っている技術を応用し、地域課題の分析や解決、企業独自の効率改善に向けて研究開発を専門とするサテライトオフィスを開設し、技術革新を試みています。今後も地域課題を事業機会と捉え、社会問題の解決と自社の発展をめざします。

会社概要

設立:1994年11月11日
資本金:1,000万円
社員数:16名
事業内容:クラウド・セールスフォース、ホームページ制作・運用・関連サービス、ウェブ広告運用、IoT・デジタルサイネージ、スマートフォン・アプリ開発、システム開発、DX支援

URL:https://www.artistics.co.jp
(藻場要るアプリ:https://mobairu.jp

「中小企業家しんぶん」 2023年 12月 15日号より