「失われた30年」と同友会運動

 2023年は物価上昇局面に入り、デフレマインドからインフレマインドに変わって日本経済は大きな転換期を迎えています。このような時期に1年を振り返ることも大事ですが、長中期で立ち位置を明確化して、2024年以降を展望することも重要だと思います。そこで、あらためて「失われた30年」と言われる日本経済とこの間の同友会運動の展開を振り返ります。

 「失われた30年」はバブル崩壊の1990年代初頭から2020年代初頭までの30年間を指します。バブル崩壊後の不動産価格や株価の大暴落を受けて、銀行や証券会社などが倒産、企業でもリストラやコストカットが行われました。不良債権問題から金融機関の貸し渋り・貸し剥がし問題もあり、中小企業は大ダメージを受けました。この間アジア通貨危機や消費税増税もあり、企業経営だけでなく消費も低迷し、いわゆる「平成不況」が2002年ごろまで続きます。

 同友会では1993年に「21世紀型中小企業づくり」を総会宣言で提唱しています。これから起こり得る不況に立ち向かうための企業づくりの提起でした。同友会運動の先進性がわかります。1993年に会員数4万548名と初めて4万名を突破していますが、これをピークとして2003年に3万6315名まで会勢が減少しています。

 2003年以降、日本経済は低成長期に入り、賃金も伸びず、非正規雇用者が増加。大手企業はコストカットで利益を出し、海外進出も進みました。その中で、2008年にリーマンショックが起こり、2011年には東日本大震災が発生。デフレ経済も長期化、経済は大打撃を受けました。

 同友会では、2003年福岡での中同協総会で「中小企業憲章」の制定を提起。2005年には秋田同友会が設立し、47都道府県に同友会が設立されました。さらにe.doyuがスタート、2008年には四万十77名と4万名会勢を回復し、2010年には「中小企業憲章」が閣議決定されるなど、運動が大きく前進しています。

 まだ「失われた20年」と言われていた2013年、当時の安倍政権は金融緩和、財政出動、成長戦略の3つを柱とした経済政策を打ち出しましたが、個人消費は伸びず国民負担率も増加、成長戦略も効果がなく、デフレ経済が続きました。2019年10月に消費税が10%に引き上げられ、個人消費低迷が続きます。2019年末から、世界で新型コロナウイルス感染症が蔓延(まんえん)、3年に及ぶコロナ禍で大きな打撃を受けました。2023年に入り、コロナ禍に比べれば業績が回復傾向の企業も多くあります。しかしながら、物価・エネルギー価格、人件費の上昇など厳しい経営環境に置かれています。

 2019年に中同協設立50年を迎え、コロナ禍の中でも「活動を止めない」「1社もつぶさない」と活動を展開し、2020年には4万7467名と2010年から11年連続過去最高会勢を達成。その後コロナの影響を受けて会勢は減少しましたが、2023年度は4万7000名を回復し、2024年には過去最高会勢を達成できそうな状況です。30年前に「21世紀型企業づくり」、20年前に「中小企業憲章」を提起し運動を展開してきた同友会運動の先進性がわかります。

(I)

「中小企業家しんぶん」 2023年 12月 15日号より