【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】
人が差別化の源泉(後編)
(有)ウメイチ 代表取締役 梅田 益生氏(岐阜)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(有)ウメイチ(梅田益生代表取締役、岐阜同友会会員)の取り組み(後編)を紹介します。

主体性強化のマネジメント:労働の価値の共有

 前編では梅田氏自らが店長になり、実践を通じて社員の意識改革が進んだと述べました。同時に、梅田氏は、社員の主体性を引き出すマネジメントにも努めました。

 その第1の柱は労働の価値の共有です。梅田氏自身、入社前はサービス業の価値を認識できず、アルバイトでやるようなものと考えていましたが、仕事に携わって考えが変わりました。

 同社の顧客は、娘の結婚式など、一生に1度の機会を絶対に成功させようと「気合を入れて」臨んできます。それにしっかり応えると顧客と従業員の間で笑顔、涙、感動が生まれます。人をケアするサービス労働ならではの喜びです。梅田氏は、「当社も『不要不急』論に押され、コロナ禍でひと月休業したが、大切な人の記念すべき日を家族でお祝いすることがいかに人生の中で貴重なことか、みんな分かったはずだ」として、自分たちの労働の価値を後述の研修のほか、朝礼、年2回の社員面接、月2、3回の社員への手紙(ファックス、社内報)で広めています。

主体性強化のマネジメント:会社のビジョンと社員の夢の統合

 第2の柱は会社のビジョンと社員の夢の統合です。自分の夢のために会社の将来を考えることが、社員が経営を自分事にすることにつながります。

 2020年、半年かけて2030年ビジョンを作成しました。まず、社員がテーブル討論で自分の生活の10年後のあり方と会社に10年後にどうなってほしいか議論しました。これを基に幹部がビジョン案を作成し、社員にフィードバック、できあがったのが「感動創造日本一」(顧客も社員も感動しあえるサービスを提供する)、「美しい着物姿創造日本一」(日本の誇りである美しい着物を着てもらい「楽しい」「きれいになる」を実感してもらう)、「“らしく”働ける環境日本一」(自分らしく働ける会社)の3項目からなるものでした。ビジョン作成により会社の目標を共有し、現状の推移と目標との乖離(かいり)を問題として意識するような社員が現れてきました。

新卒採用、人材教育

 社員の意識改革に確実に影響があったのが2012年から始めた新卒社員の採用です。最近は毎年4~6名採用し、新卒社員数は累計24名で従業員の4割近くを占めるまでになりました。彼らはウメイチの経営理念やビジョンに共感して入社し、新入社員教育から経営理念・ビジョンを基にする人材教育を系統的に受けてきたため、新卒社員の増加とともに「前へ、前へ」という意識を持つ若い社員が増えました。

 研修は教室で知識を注ぎ込まれるようなものではなく、自分の思いを語り、それに対する他者の反応を通じて学習を進めるテーブル討論方式をとっています。学習を効果的にするだけでなく、個人の自律性を涵養(かんよう)する効果も持ちます。どんな研修にするかは店長たちに相談しながら決めますが、23年9月に行った全社員研修のテーマは「いいチームとはどんなチーム?」でした。新入社員が入社する4月の全社員研修では、10年ビジョンの言う「感動創造日本一」とはどういうことだろうかを議論しました。研修には、新入社員研修、3カ月に1回の全店舗を閉めての全社員研修、月1回のマネージャー勉強会と店長勉強会などがあります。

働く魅力と着実な給与の上昇

 社員の主体性強化や成長を促すマネジメントは、企業のためだけでなく、仕事において自分が自分の主人でいたいという、人の自律性への欲求や自分の能力を高め人格を完成させようという成長欲求を満たすことでもあり、社員自身の働きがいも創出します。同社には社員の息子が入社し、客からの入社希望者も毎年1人はおり、また毎年新卒者が入社するのは、同社の働く場としての魅力が高まっていることを示します。また、同社はこの5年間毎年5000円のベースアップを行っており、23年4月の4大卒の初任給は20万5000円で、岐阜県の同業では最も高くなっています。既存社員の給与も、この10年は定昇込みで毎年平均一万円引き上げてきました。経済的報酬が貧弱だと働きがいも生まれません。梅田氏はすでに初任給25万円の時代に入っている感があるとし、収益性のさらなる上昇の必要を感じています。

人材が差別化の源泉

 以上で述べたマネジメントによる社員の主体性強化、顧客の喜びを自分の喜びとする社員の積極的なサービス姿勢が、他社との差別化をもたらしました。梅田氏には各店から日報が届きます。「今○△呉服店と競合しています。お客様はいったん帰られたけれど翌日戻ってきてくれました。『○△の方が5万円安く、娘は着物も気に入ったけれどあのお姉さんにお世話になりたいと言うのでプラムさんに決めました』」。人材力が当社の差別化の源泉になっていることがわかります。ウメイチの梅田氏入社時の撮影客単価は4・8万円でしたが、現在は9・8万円です。客単価の上昇は同社の顧客吸引力の強さを示しています。その要因は同社人材のサービス力です。梅田氏は、ウメイチを人材力で、サービス業は低賃金で単純労働という世間のイメージを打破する企業へ発展させることをめざしています。

会社概要

設立:1988年
事業内容:貸衣裳、各種記念撮影、撮影に伴う美容・着付
従業員数:63名
URL:https://plum-s.com/

「中小企業家しんぶん」 2023年 12月 15日号より