中小企業の賃上げ原資の確保を~物価上昇を上回る賃上げが一部の地域で実現

 中同協の広浜泰久会長が東京新聞社のインタビューで「今年の春闘で連合が掲げる5%以上の賃上げ目標について『中小企業には難しい』との見方」を示しました。「ただ人手不足でもあり、個人的な予測では2023年春闘(連合調べで3・23%=組合員300人未満中小)と同じぐらいには賃上げされるのではないか」と見通しを述べ、「最近、原材料費の上昇分を転嫁できた会社は増えたが、賃金については『5%上げるので価格転嫁させてほしい』という交渉ができる中小企業は、ごく一部だと思う」と述べました(東京新聞、2024年1月19日)。

 「賃金と物価の好循環」実現の鍵を握るのは中小企業の値上げする力にかかっているという見方が広がっています。日銀は1月26日、12月の金融政策決定会合の議事要旨を公表し、春闘で「しっかりとした賃上げが実現する可能性が高まっている」という見解を示しました。ただし、中小企業については「収益基盤の弱さなどにより、不確実性が高い」との意見も出たようです(日本経済新聞、1月26日夕刊)。

 雇用者の7割が働く中小企業で賃上げが広がらないと経済効果は期待できないという認識が広がっていますが、その実現は難しい課題です。しかし今、物価上昇を上回る賃上げが一部の地域で実現しています。2023年10月まで1年間の賃金増加率と物価変動率を比べたところ、群馬県と大分県で賃金の伸びが物価上昇を上回っているのです。

 群馬県は賃金が前年同期比5・0%増え、物価上昇率の4・4%を上回りました。群馬経済研究所によると県内企業の78%強が賃上げをしたか、実施予定でした。県内では高崎市が中小企業の賃上げ率に応じ奨励金を最大150万円支給する制度を始めたところ、申請は見込みの2倍以上の1150件に及び、3億円だった予算を2億円近く上積みしたそうです。

 また、大分県は物価上昇率の3・3%に対して賃金増加率が3・7%。同県は最低賃金に近い水準で従業員を雇う中小企業の賃上げに奨励金を出す制度を21年度に導入。国の助成を生かし時給を90円以上高めれば最大75万円を支給する制度です(日本経済新聞、2024年1月27日)。中小企業は物価上昇の局面でも賃上げの原資が不十分なことが多いわけですが、国や自治体の政策としてはピッタリな政策です。

 また、公正取引委員会は昨年11月末、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しました。ここでは発注者側に対し、労務費転嫁について経営トップが関与すること、下請けが要請しなくても協議の場を設けること、労務費転嫁の根拠資料を過度に要求しないことなどを明示しています。

 あとは、この「指針」(ガイドライン)の実効性をいかに高めるかにかかっています。あらゆる手段を使って経営と従業員のために、頑張りましょう。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2024年 2月 15日号より