第22回障害者問題全国交流会in愛知 パネルディスカッション
「見えない生産性」について考える
人間が人間らしく生きられる共生社会へ

パネリスト
 スズキ&アソシエイツ(株) 代表取締役 鈴木 学氏(愛知)
 (株)イベント21 代表取締役 中野 愛一郎氏(奈良)
 (株)浅井製作所 代表取締役 浅井 順一氏(愛知)
コーディネーター
 (株)BeBlock 代表取締役 松村 祐輔氏(愛知)

2023年10月19~20日に、第22回障害者問題全国交流会in愛知(略称:障全交)が開催され、45同友会・中同協から595名が参加しました。2日目に行われたパネルディスカッションの内容を紹介します。

松村:このたび、登壇を予定しておりました杉浦昭男氏(真和建装(株)会長)が9月4日に急逝されました。代わりに、浅井順一氏((株)浅井製作所)に登壇いただきます。それでは、自己紹介をよろしくお願いします。

浅井:(株)浅井製作所は自動車部品の金型設計から製造、プレス加工を行っています。社員数は77名です。樹脂射出成型を行うグループ会社のプラスチックデザイン(株)に20名在籍しており、総勢97名です。現在4名の障害者を雇用しています。

鈴木:ハーレーダビッドソン用カスタムパーツの輸入卸しをしています。私が創業者で社員数24名です。2年半前に初めて1人の障害者を雇用しました。

中野:前職は旅人です。26歳のときに親父が急逝して会社を継承しました。入社してみると、16年連続債務超過、親父の役員報酬は月額10万円、私は社員に半年間無視をされました。こんな状態から同友会で17年間学び、当時社員数4名、売上1億円でしたが、今では社員数160名、売上17億円に成長しました。知的障害、精神障害の方を4名雇用しています。

障害者問題とはなにか?

松村:まず、障害者問題全国交流会の「問題」とは何でしょうか。2023年版障害者白書によると、日本の障害者数は、1159万人(身体障害者436万人、知的障害者109万人、精神障害者614万人)です。国民の9・2%に相当します。

人口減少の中で義務教育段階の全児童生徒数は、2011年から2021年を比較して1054万人から961万人と減少していますが、特別支援教育を受ける児童生徒数は28・5万人から56・9万人と約2倍に増加しています。障害者雇用は、雇用者数61万3958人、実雇用率2・25%と共に過去最高を更新していますが、法定雇用率を達成している企業は48・3%に留まっています。法定雇用率は現行、民間企業での障害者の法定雇用率は2・3%とされていますが、2024年4月より、2・5%(社員数40人以上)、2026年7月より2・7%(社員数37・5人以上)へ段階的に引き上げられます。

内閣府の人権擁護に関する世論調査(2022年8月調査)では、障害者に対する人権問題は未だに存在しているという結果が出ています。また、障害者に関する世論調査(2022年11月調査)では、「障害のある人が身近で普通に生活しているのが当たり前だ」という設問に対して約94%が「当たり前だと思う」と回答しています。障害を理由とする差別の解消などについて、広く国民が関心を持っていることがうかがえます。

このような中、障害者問題全国交流会の「問題」とは、企業側の課題でしょうか。それとも、社会としての構造的な課題なのでしょうか。それでは、パネリストの方々、障害者問題全国交流会の「問題」について考えをお聞きします。

浅井:前委員長の杉浦昭男さんから「障害者問題委員会に参加してほしい」と言われたときに、私は「ボランティアの委員会はちょっと遠慮します」と答えていました。私自身がそうであったように、障害者に対して多くの人が持っている潜在意識の中の心理的バリアが問題だと感じています。

鈴木:私が小学生だった頃は、障害のある児童も一緒に授業を受けていましたが、今は特別支援学級のように分かれているので、健常者と障害者との接点が少なくなってきていることが問題だと思います。私は、杉浦昭男さんを含めて身近な同友会の先輩が障害者問題委員会に深く関わっていたことで障害者と関わるようになりました。

中野:障害者雇用と聞くと、重度の障害者をイメージすることも多いと思いますが、実際に関わってみると「普通やん」と本当に驚きました。知らないから関わらない、関わらないから自分ごとにならないのです。関わり、知ることで自社の課題解決につながるということにも気づくことができます。そのためには、自社で結果を出し、障害者雇用を通して会社がよくなっていることを背中で示すことができる経営者が世の中に1人2人と増えていくことが障害者雇用を当たり前にしていくことにつながると信じて頑張ろうと思っています。

障害者雇用のきっかけと現在の状況

鈴木:会の役員として活動する中で、障害者問題に関わっている先輩が身近にいたことがきっかけです。障害者雇用の例会に参加した際に、障害者雇用をすると社員が優しくなるという言葉が印象に残りました。社員が優しくなると、殺伐とした社内が柔らかい雰囲気に変わるのではないかとイメージを膨らませました。2020年に新社屋が完成し、環境も整ったので障害者雇用を決意しました。障害者問題委員会に相談すると、まず実習生を受け入れてほしいと言われ、3名の実習生を1週間受け入れ、主に輸入品の出荷作業をしてもらいました。すると、数週間後に再度2週間の実習をしたいと相談がありました。自閉症の彼は、こちらの問いかけに対して、返答までに時間がかかります。それに慣れるまでに苦労しましたが、実習をきっかけに雇用し、現在も働いてくれています。

中野:わが社は、人手不足がきっかけです。ある日、同友会で障害者雇用をしてみてはどうかと言われ、地元の特別支援学校へ行きました。校長先生から、親御さんは自分の死後、子どもを1人残して大丈夫だろうかと心配し、自立して生きていけるように苦労されているという話を聞きました。廊下に出ると、初対面の生徒たちが最高の笑顔でハイタッチをしてくれました。その子たちが愛おしく、「なんとかせなあかん」と経営者としてのプライドが燃えました。

そこから、障害者を2名雇用しましたが、半年ほどで辞めてしまいました。当時は新卒採用もしておらず、多様性を認める風土が弱かったと思います。2度目は、就労支援の専門家に入ってもらい、どうしたら障害者が現場で輝けるのか、業務内容からフォロー体制まで1年かけて事前準備を行いました。その時に雇用した彼は、倉庫でレンタル用品の管理、発送、梱包を担っています。誰よりも記憶力がよく、今ではなくてはならない存在になっています。

松村:障害者雇用を通じて苦労されたこと、大変だったことを教えてください。

浅井:障害のある社員が好意を抱いた女性社員について回るなど、気持ちが先行して行動をしてしまうことがありました。女性社員からの苦情もあり、ルールを丁寧に説明することで落ち着きました。これは、健常者でも同じことだと思います。障害者雇用を通して大変だったこともありますが、雇用してよかったと感じることの方が多くあります。

鈴木:2週間の実習を受け入れた際、社員から「時間はかかるが頑張っています」と聞いて安心していると、上長から「現場から『使いものにならない』『手間が増えて困る』と不満が出ています」との報告がありました。思わず「使いものにならないのは君たちだろう」と喉元まで出かかりました。なぜ障害者雇用をするのかを社員に伝えてきたつもりでしたが、改めて朝礼で人間の多様性を認めることで自分も認めてもらう風土をつくることが目的だと説明しました。

松村:障害者雇用を通して考えるよい会社とはどんな会社でしょうか。

中野:イベント21のビジョンは「人と文化が輝く三方に愛されるカルチャーホールディングスを皆で創り、夢と希望を世界にひろめていく!」です。これは、圧倒的によい会社とは何かを議論する中で生まれました。そして、全員で最高のhappy!をクリエイトできる会社をめざしています。なぜなら私たちは、世界中の困っている人、手を差し伸べるべき人、より豊かな人生を歩みたいと願っている人たち全員に関わりたいと願う会社だからです。つまり、障害者雇用も必然的に取り組むべき課題であると思います。

浅井:新工場を建設し、設備投資を行った矢先にコロナ感染症拡大と半導体不足の影響で売上が激減し、足をすくわれました。経営が苦しくなると、社員の中から「あいつはいらない」「少数精鋭にしましょう」とできない社員を批判する声があがりました。「働く仲間と共に歩む会社を創り、幸せの和を広げます」という経営理念を掲げていながら、私を含めて仲間を批判し、離職者が絶えない殺伐とした雰囲気でした。

私は、障害者問題委員会に関わる中で、人は必ず成長し、誰かに感謝されることでさらに成長できるということに気づきました。それから、社員と「みんなにとってよい会社にしよう」と議論を深めました。その結果、お互いを認め合い、補い合い、よさを伸ばし、仲間と共に歩む会社にしようと再確認をし、少しずつ会社の雰囲気が変わってきました。健常者も障害者も「命は平等であり、幸せになりたい」と思う気持ちは同じです。仲間の多様性を認め、社員一人一人の自主性や潜在能力を発揮できる会社がよい会社だと思います。

鈴木:障害のある社員に仕事を教えるとき口頭で伝えることが多く、なかなか覚えられない状況がありました。そこで、初心者でもわかる手順書を作成しました。手順書を作成したことで、業務内容が明確になり、誰でも活躍できるようになりました。この「安心感」がよい会社につながっていくと思います。

「目に見える生産性」と「目に見えない生産性」

浅井:会社の経営状況も苦しく、できない社員を非難する雰囲気が漂う中、ある女性社員が入社し、事務を担いましたが、間違いが多く成果が上がりませんでした。すると、社員から「あの子は使えない」と批判が始まりました。私は「人は必ず成長する」という学びを信じ、彼女ができる仕事を探しました。検品業務を任せましたが、そこでも失敗が続くので、彼女と話をすると持病を抱えているというのです。薬の副作用で勤務時間中も睡魔に襲われるとのことでした。そこで、治療を優先させ、症状が改善するまで短時間勤務に変更しました。

社員に彼女ができる仕事を洗い出してもらい、完成品の社内看板取り付け作業を担ってもらうことにしました。すると見事にできるようになり、他の仕事も任せられるようになりました。人は必ず成長できるということを私自身も社員も学びました。これが、見えない生産性であり、互いを認め合う社風が社内の活性化につながり、会社全体の生産性も向上していくと実感しています。

鈴木:障害者雇用を始めて2年ほどなので、見えない生産性に匹敵するような社内の変化は実感していませんが、手順書を作成したことで、業務が細分化・標準化され、誰もができるようになりました。生産性と聞くと効率を重視するイメージがありますが、お互いを認め合える風土を醸成していきたいと思っています。

中野:私はよい企業文化をつくることを大事にしています。文化とは、「当たり前」と定義し、よい企業文化がある企業には、よい人が集まり、よい行動が生まれ、よい結果になります。

例えば、新入社員への指導を面倒だと思う社風では人は育たずに辞めてしまうでしょう。一方で入社を喜び、一緒に成長したいと当たり前に思う社風であれば人は成長するでしょう。よいことを当たり前に行い、当たり前のレベルを上げていくことで会社のレベルが上がっていきます。日頃から、よい当たり前づくりをすることが、見えない生産性であり、それが長期的な視点で会社全体の生産性向上につながっていくと思います。

浅井:杉浦昭男さんは、「見えない生産性」なんて言いたくなかったと話していました。しかし、まだ多くの経営者に心理的バリアが存在する中、生産性という言葉を使うことで理解しやすくなるのではないかと考えたそうです。しかし、本当は見えない生産性のために障害者雇用に取り組むのではなく、同友会で人間尊重経営をめざしているのであれば、当たり前に取り組む企業が1社でも増えてほしいという願いが込められています。

障害者雇用、自立応援の運動をいかに広げていくか

松村:1986年、愛知同友会の先輩方は障害者問題委員会を設立しました。しかし、杉浦昭男さんが、砂漠に水をまくようなものだと嘆くほど、この運動の広がりが不十分であるということは感じています。

障害者雇用は無理ですという企業が多いことも理解ができます。しかし、雇用が難しくても1社1人でよいので関わってほしいと思います。運動推進の鍵は、「他人ごと」から「自分ごと」へとシフトチェンジすることです。自分にできることを考えてみませんか。

浅井:愛知同友会の障害者問題委員会では、「1社1人関わる」を掲げて活動しています。一番大事なのは、やっぱり関心を持つということだと思います。これまで読まなかった障害者関連の新聞記事を読むことも関心を持つことです。関心を持ったら、他人にその思いを伝えることでこの運動が広がっていくと思います。

鈴木:私は障害者の社員と毎日一緒に昼食を取り、声をかけ、優しく接することを心掛けていますが、健常者の社員にも優しく接しているかと問われるとできていない自分もいます。私自身も一人一人の違いを認め、人間尊重経営ができているのかを自問自答しながら会社をよくしていく経営者が増えていくことが大切だと思います。

中野:コロナの影響で売上が9割減になりましたが、創業期から始めた寄付は継続しました。創業期も大赤字で苦しい状況でしたが、大企業や著名人でなくても、自分にもできることがあると思い行動しました。「you happy, we happy! 支援」として、これまでに130を超える団体に寄付をしました。

よく「余裕ができたら寄付します」や「余裕ができたら障害者雇用します」というフレーズを耳にしますが、それではいつまでたってもできないと思います。課題を自分ごととして捉え、それを会社の課題にし、社員一人一人が自分ごとにできる会社にしたいと思っています。私たちは、個人ではなくチームで働いています。絶対に結果を出して、社員と一緒に社会を変える存在になりたいです。

日本は、社会を変えられると思う若者の割合が他の先進国と比較して格段に低いというデータがあります。若者が「どうせ無理」と諦めてしまう前に、諦めないで頑張れば絶対に夢を実現できると断言できる大人でいたいです。そして、夢を実現する方法を伝えられる大人でいたいです。そのためには、自分自身が背中で証明し続ける必要があります。

私たちがめざしているのは、自分の周りの人たちを幸せにすることです。もっと大きく、もっと広く、もっと深く社会に貢献し、日本を、アジアを、さらには世界中の「you」に幸せを届けられる企業になりたいと考えています。

「中小企業家しんぶん」 2024年 2月 15日号より