【2023年10~12月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査結果より】
「最低賃金引き上げへの対応」について
中央大学経済学部教授 鬼丸 朋子(中同協企業環境研究センター委員)

6割を超える企業で最低賃金引き上げに対応
~賃上げを機に生産性向上、高付加価値化に注力する企業も

2023年度の地域別最低賃金時間額の全国加重平均額は、昨年度から43円引き上げられ、1004円になりました。2013年度からの10年間で時間当たりで240円上昇していますが、物価上昇が長期化していることや、政府・連合がそれぞれさらなる最賃引き上げをめざしていることなどを考慮すると、今後さらに最低賃金額が上昇すると思われます。そこで、今回のオプション調査では、会員企業が今年度の最低賃金引き上げにどのように対応したかを調査しました。

会員企業のほとんどが地域別最賃時間額を把握

まず、会員企業の最賃改定に関する認識を確認しました。すると、会員企業の94・9%が最低賃金(以下、最賃)の内容あるいは概要を把握しており、92・4%が地域別最低賃金時間額を「知っている」と回答しました。一方、特定最賃については「金額を知っている」が49・3%、「金額を知らない」が50・7%となっており、自社に特定最賃の対象者がいない会員企業はその金額までは把握していない可能性があるようです。

6割を超える企業が最賃額引き上げに対応

今回の最賃引き上げに対する会員企業の対応を見ると、正規従業員に対しても、臨時・パート・アルバイトに対しても「対応した」が6割強でした。これを正規従業員数の増減および臨時・パート・アルバイト数の増減(いずれも前年同期比)別にみると、会員企業は正規従業員よりも臨時・パート・アルバイトに「対応した」とする回答の方が高くなっています(図表1)。

自由回答(記述)を見ると、会員企業の中には、最賃水準を上回っているために特に対応しなかったとする回答が散見される一方で、最賃近傍の額で臨時・パート・アルバイトを雇用しているために最賃引き上げのタイミングで時給水準見直しが必要になったケースもありました。

また、最賃引き上げによってこれまでよりも短い労働時間数で「年収の壁」を超えることになったパート・アルバイトが就業調整したために、想定以上の人材不足に悩む会員企業も存在していました。

さらに、近年の人件費の高騰が経営を圧迫していることに頭を悩ませ、度重なる価格転嫁の難しさを訴える回答も見られました。

最賃引き上げへの対応

最賃引き上げに対して自社でどのような取り組みを行ったかを確認すると(n=644、複数回答)、最も回答数が多かったのは「正規従業員の賃金の引き上げ」(68・2%)、次いで「臨時・パート・アルバイトの賃金の引き上げ」(61・2%)、「商品・サービスの値上げ」(44・1%)、「生産性向上」(43・6%)でした。企業規模別の最賃引き上げの取り組みを見ると、「正規従業員の賃金の引き上げ」は50人以上100人未満58・9%と企業規模計(68・2%)より低くなっているものの、20人以上50人未満で74・4%、100人以上で71・2%と、おおむね企業規模が大きい方が実施割合が高くなっています。「臨時・パート・アルバイトの賃金の引き上げ」は、企業規模計(61・2%)と比較して、5人以上10人未満が55・1%、10人以上20人未満で52・7%と、それぞれ全体平均より低くなっていました。また、50人以上100人未満規模の企業について、他の企業規模の回答と比較して、「生産性向上」(53・3%)、「経営合理化」(30・0%)、「残業時間の見直し」(25・6%)といった具合に、企業努力を通じて対応しようとしていることがうかがえました(図表2)。

自由回答(記述)にも、「会社全体で賃金引き上げを共有し、全員で生産性向上に取り組むチャンスと捉えさらに賃上げできる体制にする(沖縄、流通・商業)」、「賃上げ分をどこで回収するか? 利益アップは簡単ではない! 少人数でも利益を上げられる仕組みを会社全体で考えるようになった(長崎、流通・商業)」、「休日の確保、残業時間の削減を社員に周知し業務の効率化を図っている(北海道、建設業)」のように、いわば「ピンチをチャンスに変える」取り組みが進められています。さらに、「最低賃金引き上げで業務改善助成金を活用して高品質の機材を購入できた。これにより、生産性を向上するとともに、高付加価値の商品を提供ができると期待している(和歌山、製造業)」のように、各種助成金を活用しながら生産性向上をめざしているケースもみられました。

中小企業を支える政策の充実も重要

今回の調査から、最賃引き上げは会員企業の賃上げにも影響しており、生産性向上や業務効率化、価格転嫁など、各社で知恵を絞って採算確保に努めている状況が浮き彫りになりました。とはいえ、近年の人件費高騰は、必ずしも個別企業の努力のみで乗り越えられるものではありません。中小企業が適正な収益を得て地域の産業や雇用を支えていくために、同友会活動をさらに活発化させ、中小企業が地域に果たしている役割を自覚し、伝えるとともに、地方自治体や政府に各種支援の充実などを働きかけることも大切です。

「中小企業家しんぶん」 2024年 2月 25日号より