【わが社のSDGs】町工場のSDGsへの取り組み方~教育活動でモノづくりの魅力を発信
(株)光製作所 代表取締役 井上吉史氏(大阪)

SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年を達成年限とし、「誰1人取り残さない」持続可能な社会の実現をめざす世界共通の目標です。連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第10回は、(株)光製作所(井上吉史代表取締役、大阪同友会会員)の取り組みです。

 同社は1937年に井上氏の祖父が創業。精密板金加工を中心に、道路照明器具や医療・理美容機器などさまざまな製品を製造しています。井上氏は、物心ついた時から後継者になると自覚しており、大学卒業後はいったん光製作所に入社するも、外の世界を知ろうと考え、他社で8年働きました。その会社の経営者が同友会の会員で、誘われて勉強会に参加した際、経営者の熱い思いに感銘を受け、自社に戻ってきた2008年に大阪同友会に入会しました。

 同友会で経営理念が会社の背骨であると学び、セミナーに参加して、「我々は社会の光となります」という経営理念をつくりました。井上氏は上から言うだけでは経営理念は社内に浸透しないと考え、会議で社員に「あなたにとっての経営理念とは」を発表してもらっています。

モノづくりの楽しさを伝える

 同社がある東成区は、多くの製造業が集積している一方で、交通の便がよく、住宅やマンションなどが多く建設されている住工混在のエリアです。騒音などの住工間の問題解決のため、地元の製造業の企業が中心となった「東成区住工共存まちづくり懇談会」で議論を重ね、2011年に「わが町工場見てみ隊」が企画実施されました。小学生とその保護者に、普段見ることができない工場でのモノづくりの現場を見てもらうという企画で、東成区役所と地元企業が連携して現在まで継続して実施されています。

 この親子での工場見学会から派生して、東成区主催のモノづくり体験イベントも実施されるようになりました。光製作所は、大阪名物や昆虫などの形に切り抜かれたステンレスの表面を紙やすりで磨く体験をイベントで提供しています。

教育へのサポート

 光製作所は、教育機関のサポートとして、小学校から大学まで施設見学を受け入れており、府外の小中学校の修学旅行生も見学に訪れています。井上氏は「地元小学校の科学クラブが工場見学に来るのですが、娘が見学をしたいという理由でクラブに入ったのがうれしかったです」と笑顔で語りました。

 井上氏は出前授業も行っており、高校では生徒たちに対し、彼らが知らない仕事が世の中にはいろいろあるということを伝えています。大学については、同友会がゼミのテーマに沿った経営者を選ぶというかたちで実践講座を行っており、井上氏はSDGsの取り組みや経営理念について話しています。

 また、住工の懇談会で知り合った大学教授との縁で、学生の卒業制作の手伝いも行っており、アドバイスや作成などを請け負っています。

会社の変化

 外部の人を工場の中に受け入れるようになってから、社内の整理整頓ができるようになり、社員にとっても働きやすい職場環境になりました。

 また、モノづくり体験イベントで子どもたちにどんなモノづくりをしてもらうかというアイデアは、以前は社長が考えていましたが、今は社員と会議で決めています。当初、社員は職人という自負から、モノをつくる以外のことをやる必要はないという考えでしたが、イベントを通して子どもたちに専門用語を使わず笑顔で接することでお客様に対してもわかりやすく丁寧な対応ができるようになりました。また感謝され、感動してもらえることで自分たちの仕事にやりがいを感じるようになりました。

 社員のやりがい・誇りという点でさらに言えば、区役所との関わりを持ち、頼りにされることが、堂々と地域の皆さんに誇れる会社に勤めているという社員の意識につながっています。区役所からさまざまな地域活動に対して声がかかることもあり、「国民や地域と共に歩む中小企業」の大切さを実感した井上氏は、区が創設した「東成区災害時協力企業等登録制度」に登録し、地域の防災力向上にも貢献しています。

今後の展望

 井上氏は「世界各国が賛同しているSDGsを知らなければ若者から選ばれる企業になれない時代」だと考え、方針で悩んでいるのであればSDGsを自社方針に取り入れるべきだと例会報告や経営指針セミナーで伝えています。「わが社の場合はSDGsに取り組もうとして何かを始めたわけではなく、元々取り組んでいた『住み続けられるまちづくり』などがSDGsへの取り組みに当てはまっているという感じです。例えば、会社の前にある公園の清掃も私が社長になった当時から会社として取り組んでいます。同友会理念とSDGsは重なるところが多く、いろんな教育活動に取り組むきっかけになったのは同友会理念だと言えると思います」と語る井上氏。今後は、休日数を増やすなど福利厚生を充実させるとともに採用にさらに力を入れ、自社製品の開発、海外進出をめざしています。

 世界を視野に入れつつ、光製作所はこれからも地域と共に歩み続けます。

会社概要

設立:1937年
資本金:3,000万円
社員数:7名
事業内容:精密板金加工
URL:https://hikari-ltd.com/

「中小企業家しんぶん」 2024年 3月 15日号より