【あっこんな会社あったんだ!】働く環境づくり
あらゆる困りごとを「ことごとく」解決 (株)和光舎 代表取締役 西谷真一氏(京都)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「働く環境づくり」をテーマに、西谷真一氏((株)和光舎代表取締役、京都同友会会員)の実践を紹介します。

 僧侶などが着用する法衣や袈裟のクリーニング・補修と刺繍の修繕を専門に行う(株)和光舎。取引先のお寺の数は年間で日本全国約5500に上りますが、そのほとんどに直接訪問して法衣を受け取り、納品も手渡しで行っています。遠方の場合は飛行機で移動して現地でレンタカーを借りることもあるほどで、顧客の要望をしっかりとくみ取るために対面にこだわり続けています。検品時に見つからなかった傷みやほつれが作業中に出てくることもしばしばありますが、見積もり後に追加料金が発生することはなく見積書=請求書の金額としています。顧客に安心感を与え、強固な信頼関係を築いているのが同社の強みです。

お寺からの相談をきっかけに創業

 同社は、お寺向け保険商品のセールスマンを務めていた西谷氏の父が1994年に創業。きっかけは、訪問先のお寺から「法衣の修理やクリーニングをしてくれるところはないか」との相談を受けたことでした。当時は法衣専門のクリーニング業者はなく、多くのお寺から同様の相談を受けたことで需要の高さを実感し、創業に至りました。その後、同社の評判は口コミを中心に関西から日本全国へと広がっていき、2004年には西谷氏が入社します。そして、入社後10年が経った2014年に父から同社を承継しました。

 2019年には、自分の軸をつくりたいとの思いから京都同友会に入会します。「人を生かす経営実践塾」の受講が自身と自社を振り返る機会となり、自社の強みや伸ばすべき点が明確になっていきました。現在では、毎年経営指針を社内で発表するとともに、経営理念や就業規則などが記されたA5サイズの手帳を全社員に配布して、経営指針の具体化と社内での浸透を図っています。

 現在、社員数32名のうち刺繍や和裁士などの資格を持つ職人を22名抱えています。和裁士の資格者は圧倒的に少ないと言いますが、専門学校との関係づくりに取り組んできたことで定期採用ができており、20代~40代の若手社員が多く活躍しています。「働いているうちに、いずれは自分が社長になりたいと思うようになった」と話す西谷氏。それは、職場環境を改善したいとの思いを抱えていたからでした。

ITの活用で働く環境づくりを整備

 それまでの同社は、週6日勤務で残業も多く、中にはサービス残業もあり、有給休暇もなかなか認められなかったと言います。また、他社に修繕業務を委託している中、預かった法衣の工程管理も課題でした。現在どの工程を行っていてどの工程が残っているのかを把握できておらず、顧客からの問い合わせへの回答には1週間かかるという状態でした。

 そんな中、社員の働く環境を改善するため、1年単位の変形労働時間制を導入します。全体の労働時間を調整して、繁忙期である衣替えシーズンに時間を集中させることで労働時間短縮につながり休日数が増加、有休も申請しやすい環境へと変化していきました。

 課題だった工程管理にはデータで一元管理できるシステムを導入。社員にはタブレット端末を配布して、外出先からでもすぐに状況が確認できるようにしています。デジタル化によって、それまでの無理・無駄が削減されたことでさらなる労働環境改善につながっています。

 また、昨年10月から全社員に食事補助をコンビニやスーパーなどで利用できるIDカード決済で支給しています。社内での業務が多い社員と外出の多い営業社員の両方に公平に補助を支給できる仕組みにしており、ITの活用で福利厚生も充実させています。

お寺の悉皆(しっかい)業として

 幼稚園や保育園などを経営するお寺も多い中、「仏教の教えを子どもに分かりやすく伝えられる絵本を作れないか」との相談をきっかけに「こどものための仏教絵本『うさぎのおおまちがい』」の制作に着手し、自社のHPなどで販売しています。

 こうした活動の根底には、創業時から続く「お寺のどんな要望や困りごとにも応えられる存在でありたい」という思いが流れています。顧客の悩み事にすべてワンストップで解決できる存在となるため、西谷氏は同社を「お寺の悉皆業」と定義しています。「働いている職人に喜んでもらえるような職場環境にし、クリーニングだけでなくあらゆる悩み事を解決してお寺に貢献したい」と語る西谷氏。最新技術を駆使しながら、伝統産業のさらなる発展に貢献を続けます。

会社概要

設立:1996年
社員数:32名
事業内容:法衣・袈裟のクリーニング、補修業と刺繍製品の修復事業
URL:https://wakohsha.com/

「中小企業家しんぶん」 2024年 4月 5日号より