【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】
人と人とのつながりを力にする建物リノベーション専門企業(前編)
(株)ストラクス 代表取締役 山本 克己氏(千葉)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)ストラクス(山本克己代表取締役、千葉同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

改修工事に必要な独自のノウハウ

 (株)ストラクスは1995年の創業当時から建物の改修工事を専門としています。古くなった建物の外装や水回りなどの老朽化した機能・景観の原状回復だけでなく、間取り、デザイン、バリアフリー化など新たな機能を加え、建物の価値を高めるリノベーションに力を入れています。

 改修工事には新築にはない独自のノウハウが必要です。新築工事の場合、使用者がいない状態で作業しますが、改修工事だと使用者や隣接する居住者がいる中で作業をします。そのため、作業員が出入りする音や作業する騒音、材料から出る臭いなどを防ぐ作業環境をつくらなくてはなりません。また、標準化された工法を適用すればよい新築と違い、経験に基づく判断が重要です。例えば、床張り工事では新築と違い、床はがしから行いますが、これについては案件ごとに工数も変わり、経験に裏付けられた施工計画が必要です(その分、競争に左右されない利益が得られる機会も少なくありません)。

 山本社長は旧勤務先での経験から改修工事のノウハウを得ていましたが、創業当時は、新築工事の片手間に改修工事を請け負う企業が多く、このようなノウハウを持っている企業には希少価値がありました。しかも、ストラクスは特定の工程だけでなく、豊富な協力事業者を有しているため、塗装、内装、水回り、電気関係等々、幅広く仕事をこなすことができ、発注者には総合的に発注できる便利さがありました。

 このため、ゼネコンなど新築業者は、ストラクスに案件の調査・見積もり・施工管理のすべてを任せ、「管理費」を上乗せして顧客と契約すればよく、同社は改修工事にはなくてはならない存在になりました。

独立企業への前進

 山本社長は以前営業部長として勤務していた建設会社から独立、当初はもっぱら地元工務店から仕事をもらっていましたが、現在の発注者別の売り上げは、ゼネコン40%、地元工務店20%、役所関係25%、民間顧客からの受注15%です。ゼネコン、工務店との取引はいわゆる下請けとしての受注になりますが、役所関係と民間顧客からは直接受注で、両者合わせて40%に達しています。現在、民間顧客との取引が増加しており、ストラクスは独立企業へ前進していると言えます。ただ、これに対し山本社長は異を唱えます。「同友会も脱下請けを勧めているが、下請け受注は営業不必要というメリットがある。また、この下請け企業なくして取引先はやっていけないという必要不可欠な存在になれば、価格決定権は下請け企業にあるため、下請けとしての成長もありうる」

 そのとおりですが、下請け関係の経済学的定義は「対等ならざる外注関係」です。ストラクスのように、独自のノウハウを基にゼネコンとも「対等な外注関係」を結んでいる企業は、他社から外注を受けていても独立企業です。したがって、ストラクスは二重に独立企業化を進めていると言えます。1つは、直接取引する取引先の増加により、もう1つは既存の外注取引における脱下請け化によってです。

人とのつながりを大事にする

 ストラクスの経営理念は「人と人との懸け橋となり、価値ある未来を創造する」です。この理念のとおり、同社は人とのつながりで創業し、発展してきました。取引先の開拓には山本社長が旧勤務先での営業部長として培った人脈が生かされました。山本社長は旧勤務先に一生勤めるつもりでしたが、会社から自分の思いとは違う行動を命じられるようになり、独立することにしました。退職したのち、関係各所へ改めて開業のあいさつに行くと、異口同音に「馬鹿だな」と言われました。この時はバブル景気の崩壊後ですでに不況に突入していたからです。しかし、「仕事がないだろう」と、30万円、50万円と小さな仕事をくれる人が現れました。建設業界は企業同士より人同士のつながりの方が濃い世界なのです。

 山本社長は営業マンでしたから建築工事のスキルはなく、協力業者が必要でした。以前から親しかった人が、12人も集まった上、社員も集まってくれました。はじめは個人として活動していましたが、旧勤務先の部下が一緒にやりたいと合流し、95年に2人で(有)ストラクスを立ち上げました(97年株式会社化)。その後さらに旧勤務先から3人加わり、山本社長を含め社員5人が旧勤務先出身となりました。

 ストラクスの現在の年商は38億円(2023年5月期)ですが、初年度の売り上げは1億円、2000年ごろには5億円になりました。好調な売り上げの要因は、改修工事の専門企業が少なかったことのほか、社員がみな気心が知れている間柄なので、とてもチームワークがよかったこともあげられます。

 同社のホームページには社員のインタビュー欄がありますが、入社の理由として5人中3人が山本社長の人柄に惹かれたからと答えているように、山本社長には人を和やかな気分にさせる人柄による独特の人材吸引力があるように見えます。経営理念のとおり、山本社長が懸け橋となり人々を結び付けています。

(後編につづく)

会社概要

設立:1995年9月20日
事業内容:建築物の改修・新築工事に関わる施工管理
従業員数:54名
URL:https://www.stracks.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2024年 4月 5日号より