地域課題を企業課題として実践する企業

 日本経済の長期停滞が続き、人口減少と高齢化が急速に進む中、地域の衰退が深刻化しています。地域は人間が生活する場であり、中小企業にとっては経営者や社員の暮らす場、顧客の暮らす場、事業活動を行う場でもあります。地域と中小企業の盛衰は、まさに一体と言えます。

 中小企業は、地域課題を企業課題として取り組んでいくことが社会的にも期待されており、またそれが企業の活路を切り開く鍵にもなっています。ここ数年、中同協や各同友会の活動方針でも、各社の経営指針に地域づくりを位置付け、地域課題を企業課題として実践することが強調されています。今回は、最近の全国行事の報告から「地域課題を企業課題として実践する」企業の事例を紹介します。

 松井エネルギーモータース(株)(松井健彰代表取締役、富山同友会)は、人口1万9700人の富山県上市町でガソリンスタンドや自動車販売整備のお店を3店舗経営しています。

 松井氏は3代目ですが、社長就任後、「自社は地域のために何ができるのか」を考えるようになります。そして自社の歴史をさかのぼると、近所の方が求めるものに応えてきて今の自社があること。地域の方の声に応えることで成長してきた会社だということに気づきます。

 創業時は農家向けの鎌や麦わら帽子、長靴などを販売する商店だったのが、その後、地域の声に応えるうちに、ガスや灯油の販売、ガソリンスタンドの経営、自動車整備・販売などに広がってきていたのです。

 そこで同社は、事業定義を「カーライフをトータルサポートする会社」から「自社はこれまでもこれからも地域の声に耳を傾けそれに応えることで成長していく会社」へと変更。そこから福祉車両の販売・整備、家庭用除雪機やシニアカー(高齢者電動車椅子)の販売・整備などに広がり、企業も成長しています。(2023年3月3~4日、中小企業問題全国研究集会第3分科会での報告より)

 中同協第55回定時総会第14分科会(2023年7月13~14日)では、埼玉同友会川口支部の山本佳奈子氏((株)アクシス代表取締役社長)、中島伊都子氏(中島製本(株)代表取締役社長)、福井千波氏((株)コマドデザイン代表取締役)の3名が報告。東京に隣接する川口市にあって、以前は地域をあまり意識していなかった3人ですが、それぞれ同友会活動を通して地域を考えるようになります。地域内経済循環を推進し地域課題を解決するために自社は何ができるかを模索。川口市は中小企業振興条例を2010年に制定していますが、市の地域貢献事業者の認定取得、市の総合計画の学習など行政とのつながりも大切にして地域課題について深めていきます。その結果、それぞれが災害対策品の開発や地域の障害者施設との連携による新商品の開発、市の女性創業者支援事業の受託など、地域課題をベースに新しい事業展開が生まれた事例を生き生きと報告しました。

 さらに地域課題を解決したいという思いは多くの共感を呼び、同友会への入会も広がっていることが報告されています。

 福井氏は「地域課題を知っているのは国でも県でもなく私たち地域企業です。私たちが地域を変えずに誰が変えるのでしょうか」と語っています。今こそ多くの中小企業が地域課題に目を向け、それぞれの企業の個性を生かしてその解決に取り組んでいくことが求められています。

(KS)

「中小企業家しんぶん」 2024年 4月 15日号より