結束・加速・ReBorn~理念実現のため激動時代の潮流に乗れ~
第54回中小企業問題全国研究集会in三重

3月7~8日、第54回中小企業問題全国研究集会in三重が開催され、47同友会と中同協から1145名が参加しました。今回の特集では、全体会での主催者あいさつ、開催地あいさつ、3つの分科会報告と2日間のまとめを紹介します。

【主催者あいさつ】中同協 会長 広浜 泰久氏

今回の全研は今、同友会運動が向かっている新しいステージにふさわしい研究集会になったと感じています。

まず、同友会の立ち位置がだいぶ変わってきたことを皆さんと共有しておきたいと思います。私は中同協会長としてNHK「日曜討論」に11月と2月に出演させてもらいました。全国の中小企業の代表として声がかかる立ち位置になってきたということです。この理由は大きく2つあると思っています。1つは同友会がやってきたことの先進性です。特に人を生かす経営については、先進性が際立っていると感じます。もう1つは、われわれが進めてきた運動の広がりです。企業づくりはもちろんのこと、地域づくりにおいては、憲章条例制定運動や官金学との関わりはどんどん増えてきています。また3月1日には、全国の会員数は4万7587名と過去最高会勢になりました。影響力の大きさは以前と全然違うものになってきたと感じます。

私は第5分科会で義農味噌(株)の田中社長(愛媛同友会代表理事)のお話を聞きました。本当に苦労を重ねながら経営理念を実行してきていて、今は社員の方が「私たちって経営理念を実行していますよね」ということを話してくれるようになったそうです。グループ討論でも、それぞれが自社の強みをどのように生かしているかを発表してくれるのですが、すごい話ばかりでした。こういうメンバーが増えれば必ず地域、そして日本はよくなると確信しました。

今回の学びを糧に、私たちが種火となって日本全国を盛り上げていくことを祈念いたしまして、主催者を代表してのあいさつとさせていただきます。

【開催地あいさつ】三重同友会 代表理事 西村 信博氏

遠路はるばる三重県までお越しいただき、誠にありがとうございます。同じ中日本ブロックで起きた能登半島地震では、多大なる被害を受けられたことと思います。心からお見舞い申し上げます。皆さまが1日も早く安心して日常生活に戻れるよう心よりお祈りしております。

35年ぶりに三重で開催される全国行事ということで、コロナ禍の時から構想してきました。開催施設と懇親会、また宿泊に関して、皆さまにいろいろな形でご協力をいただきありがとうございました。また、平松実行委員長をはじめ会員の皆さま、事務局の皆さん、本当に最後の日までありがとうございます。

この2日間を通して学んだことを実践に生かし、常に経営を考え、フォローし合いながら、会員同士が協力していける同友会としてますます頑張っていきたいと思います。残りの時間をこの三重で楽しんでいただき、またぜひ三重にお越しください。ご参加いただき、誠にありがとうございました。

【座長報告】第2分科会 経営指針【三重】

好きこそものの上手なれ ~発酵野郎の研究開発型人生~

報告者:鈴木 成宗氏((有)二軒茶屋餅角屋本店 代表取締役社長)
座長:稲垣 法信氏((株)稲垣鉄工 代表取締役)

二軒茶屋餅は1575年に船着き場の茶店として操業を始め、鈴木社長は現在21代目です。

本人いわく、やりたいことは徹底的にしないと気が済まない性格で、微生物が大好きな少年だったそうです。1997年に専務がクラフトビール業界に参入しました。売れるためには世界一になればいいと考え、まずは国際審査員資格を取得し、世界一のレベルと味を理解してビールを作成。見事2000年にはJapan Beer Cupで金賞、2003年にはオーストラリアインターナショナルビアアワードにて日本企業初の金賞とベストオブクラスウイナー賞を3年連続で受賞しました。

その後ビールが飛ぶように売れたかと言えば、そう簡単にはいきませんでした。鈴木社長は経営に関しては全くの素人で、飲食店をオープンしても廃業が続いていました。2004年から経営の勉強を始めて、なぜダメだったのかが見えてきました。理由の1つ目は数字が見えていなかったこと。2つ目はお客様が見えていなかったこと。3つ目は必死に考えず、好きなことをただやり続けていたことです。

経営の勉強を必死に行った結果、たくさんの人脈に助けられ、コロナ禍でもびくともせず、工場店舗の拡大やさまざまな賞を受賞することができました。経営者は一から数字を勉強し、自社の立ち位置を俯瞰(ふ かん)しながら把握し、ブランディングをしなければどんな技術を持っていても経営は成り立たないことを改めて理解しました。会社には、その未来に引き込まれた優秀な人材の応募が後を絶たないそうです。

何より鈴木社長のいいところは、自ら経営を楽しんでいるところと熱く夢やビジョンを語ることです。経営者が夢やビジョンを熱く語れなければ、目標が現実にならないことを再認識しました。

【座長報告】第4分科会 人を生かす経営の実践【広島】

もがきながらの新卒採用・社内改革・社員育成
~みんなの経営指針書ストーリー~

報告者:今津 正彦氏((株)アイ・エム・シーユナイテッド 代表取締役)
座長:松下 仁氏((株)ジェイ・スマイル 代表取締役)

(株)アイ・エム・シーユナイテッドは、工業用模型のオーダーメイド製造をされている会社です。今津社長はサラリーマンを経て、38年前に親子3人で20坪ぐらいのプレハブから木型製作の会社をスタートさせました。

事業も順調で工場も新しく建てた頃、社員16名の会社をM&Aしました。社風の違いから、合併した会社の社員からの反発がひどかったそうです。社員全員が社長に要望書を提出し、要望書に対して一人一人に口だけで返していたところ、次々と社員が辞めてしまいました。失敗に終わるのではないかと思った時に同友会入会の話が舞い込んできました。まずは経営指針セミナーに参加。また、各種例会で新卒採用をしたら会社が変わるという話を聞き、新卒採用にもチャレンジしました。新卒を受け入れるための準備として就業規則の見直しや人事評価システムの導入などを行い、共に育つということに力を入れてきました。

そのような中で、コロナ禍前に新社屋を建てました。大変かと思ったのですが、2018年から経営指針発表会を開き、社員みんなの経営指針書を作ることにより、コロナ禍を乗り越えることができたそうです。

学びとしては、企業経営と同友会活動は両輪。自ら心を折らない。諦めずに行動を。やりがいを実感できる指針があれば人は集まる。「自社と周りの人生を豊かにするには」について考え、何のために経営しているかを成文化する、ということです。

最後に、今津さんはこう仰っていました。「社長が変わらなければ会社は変わらない」。これを第4分科会のまとめとさせていただきます。

【座長報告】第7分科会 デジタル化【宮城】

中小企業の現場から考えるDX
~「組織」「事業定義」「人がすべき仕事」の再定義~

報告者:阿部 章氏((株)パルサー 代表取締役)
座長:後藤 広晴氏((株)comme︱nt 代表取締役)

DXは非常に多岐にわたるテーマです。第7分科会では「自社が何を実現するために(目的)DXが必要なのかを明確にすること」「あくまで、DXは手段であるということ」を前提としました。以上を基礎にDXを進める上で必要なポイントを3点にまとめました。

1点目は「事業づくりの視点」です。既存事業を闇雲にやり続けるのではなく、事業の断捨離も必要であり、強みに特化すべきだということです。新しい事業のかけ算から事業を再定義し、改善を積み重ねていくことが必要です。2点目は「組織づくりの視点」です。弱みの改善ではなく、強みをさらに強くしていくこと。特に、人がすべき仕事とそうではない仕事を明確にし、そこから小さな成功体験を積み重ね、組織を再定義する必要があります。3点目は特に重要な「人づくりの視点」です。(株)パルサーの事業の目的は、「関わる人が幸せになる会社をつくること」「社員の笑顔の質を高め、笑顔の量を増やすこと」です。阿部氏は、社員が幸せに働ける環境づくりを一緒に考えることを実現するためにも、仕事を見える化し、理解しやすいものにし、再現性を担保していくことの重要性を報告しました。以上が、本来の「人が関わるDX」だということを学んだ分科会となりました。

【2日間のまとめ】 中同協 幹事長 中山 英敬氏

今回の全研は12の分科会に分かれて、中小企業を取り巻く問題や課題が山積するこの難局をどう乗り越えるのかを学び合いました。2日間の学びを2点にまとめます。

1点目は、人を生かす経営の総合実践で強(きょう じん)靱(きょう じん)な企業体質へ変わっていこうということです。記念講演は、立花さんによる世界規模の壮大な構想に挑むお話でした。ビジョンが鮮明に描かれており、諦めずにやり続けることで一歩ずつ実現に向かっています。皆さんはビジョンがどれくらい鮮明に描かれているでしょうか。

この総合実践の意味は、10年ビジョンを掲げ、方針や計画に労働環境の整備、そして採用や社員教育を位置づけて社員と共に取り組むことです。さらに、事業承継や環境経営、そして地域との関わりも経営指針に位置づけて総合的に実践しているかということがとても重要です。特に、地域の課題を自社の課題として取り組むことは、地域に根ざし発展していくための企業づくりそのものです。そこで確認しておきますが、「地域」の概念をどう捉えるかということです。社員や家族の生活領域、自社の経済活動の範囲、また自社が属する業界という観点で捉えてもいいと思います。

2点目に、大きな時代の転換期にある今、人々の生活様式や働き方、また経済活動などわれわれを取り巻く環境は激変しています。その変化が大きければ大きいほど新たな市場も生まれるという見方ができます。事業領域の見直しや新規事業への挑戦など、自社の事業を再構築する絶好の機会であるということです。昨日の第9分科会でも、経営は環境の変化と共育ちであるというお話がありました。前向きにこの激変の時代を捉えるとチャンスがたくさん見えてくるのではないかと思います。

ここで確認したいことは、激変の時代、どんなに環境が変わろうとも、ぶれない軸(理念)をしっかりと根付かせることが大切です。その上で変えるべきところを大胆に変えていくということです。

もう1つ確認したいことは、同友会の理念が自社経営の中で反映されているかということです。労使見解の考え方は言うまでもありませんが、特に、自主・民主・連帯の精神が企業風土として育っているかです。自主、社員一人一人が自主的な発言や行動ができているか。民主、社員一人一人の違いを認め合う企業風土になっているか。そして連帯、経営指針に基づく全社一丸の体制で経営しているか。ここを再度確認しながら企業変革を起こしていきましょう。

企業づくりと地域づくりが、経営指針の全社的実践を通して有機的につながってきています。人を生かす経営の総合実践で社会課題や地域課題に取り組み、全社一丸の体制で企業変革に挑戦すること。これが今回のテーマ「結束・加速・ReBorn~理念実現のため激動時代の潮流に乗れ~」ということだと感じました。

「中小企業家しんぶん」 2024年 4月 15日号より