黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、旭タカロン(株)/(株)エー・ケー・テック(岩本慎一代表取締役、大分同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。
九州トップのフェルト・反毛(はんもう)製造企業
旭タカロン(株)は自動車内装用フェルト(遮音材、吸音材、緩衝材)、エアコン屋外機用フェルトを製造しています。(株)エー・ケー・テックは古着などからフェルトの原料の反毛(綿)を作り旭タカロンに販売し、一部は直販します。フェルトと反毛の売り上げはそれぞれ九州でトップで、両社は同一敷地内にあるグループ企業です。両社売り上げの単純合計は、22年度14億円、23年度15・2億円、24年度17・3億円とコロナ禍後の自動車産業の復旧とともに増加しています。
一貫生産の強み、価格は絶対落とさない
旭タカロンのフェルトの売り上げ割合は、日産自動車向け(福岡県苅田町)60%、トヨタ自動車向け(福岡県宮若市)15%、ダイハツ工業向け(大分県中津市)15%、エアコン向け10%です。自動車用に関しては完成車メーカーから見て2次取引先(ティア2)で、直接の発注者は自動車内装の総合部品メーカー(主な取引先2社)です。
福岡県にライバルメーカーが1社ありますが、フェルト製造のみで、反毛からの一貫生産を行っているのは全国でも旭タカロンだけです。そのため、仕入価格の抑制、仕入期間・納期の短縮ができます。また、発注は「ウール××%、合繊繊維××%の反毛を使った××の硬さ、厚さ、形、色調のフェルトが欲しい」という形で来ますが、反毛工程を持つ同社は独自で原料の組み合わせができます。製品機能を変えずにコストダウンの方法はないかという要望にも、割高になっているウール素材に代えてアクリル素材を使っても機能は変わらない―というような提案を行えます。
提案力は製品の付加価値を増やす上で大変重要です。代表取締役の岩本慎一氏は製品付加価値の増加で利益率と給与原資を増やすことを考えており、絶対に製品価格は落とさないと言います。その基盤になるのが提案力です。中小企業は価格競争に陥ったら破滅するだけで、知見と技を付加価値に置き換える経営が発展の鍵と考えています。
防衛的賃上げには陥らない
コロナ禍後の2023~25年、毎年、従業員平均で5%(定昇込み)の賃上げを行うことができているのも価格形成力があるからです。とはいえ、総コストベースで価格転嫁率は50%に達していません。政府の政策で、取引先の方から価格交渉の呼びかけがあるようになり、交渉環境はよくなりましたが、価格転嫁率はまだ低水準です。収益力がないのに従業員を引きとめるために「防衛的賃上げ」に追い込まれる中小企業がありますが、同社も防衛的賃上げに陥らないようにするための努力が必要とされています。
創業の経緯
旭カタロンは、岩本氏の義父が1990年に創業。義父は東京トヨペットに勤務後、親類が経営する日産自動車向けのフェルト製作を行う神奈川県座間市の企業に勤務しました。日産自動車の福岡県工場の増設、トヨタ自動車の福岡県への進出の情報を得て、九州での新企業創設を決断、創業資金の捻出と運営は座間の企業と共同で行いました。九州にはフェルト、反毛の工場がなく、絶好のビジネスチャンスと考えました。宇佐市に進出したのは顧客工場への交通の便がよいためで、宇佐市による安価な土地の紹介も進出理由となりました。
環境経営を見据えて
エー・ケー・テックは1996年創業です。創業者が反毛工程も持ちたいと思ったのは効率性のためだけではありません。当時は今ほど「環境経営」は意識されていませんでしたが、CSRの一環として企業の環境への貢献が社会の要請となりつつある一方、大量生産による衣服の大量廃棄が増えていました。いずれ、この対策が必要となる時が来ると考え、90年の創業時から反毛工場用の土地を敷地内に用意していました。
エー・ケー・テックは年間約400トンに及ぶ国内で不要となった法人ユニフォームや古着をフェルト原料となる反毛にリサイクルし、脱炭素に貢献する循環型ビジネスを展開しています。大手紳士服メーカーや大手運輸企業と提携し、売れ残り品やユニフォーム古着を回収しています。旭タカロンとエー・ケー・テック共通の「経営指針書」によると、両社の経営理念は「私たちは独自のフェルト・反毛づくりを通じ、環境にやさしく心豊かで持続可能な社会の実現に貢献します」です。反毛からの一貫生産は、企業の競争力を高めるだけでなく、環境貢献を経営の柱にするという狙いがあります。
岩本慎一氏の入社
岩本氏は東京でJTBに勤務していましたが、義父の従前からの要請によるキャリア計画に基づき20年度に両社の取締役として入社、23年度に両社代表取締役に就任しました。20年度の1年間でホームページ新設、人事評価制度、就業規則などの見える化(仕組づくり)を行い、グループに新風を送り込みました。21年には大分同友会に加入、1年かけてグループの経営の基本となる経営指針を作成し、「人財マネジメント」を各種戦略の土台と位置づけました。後編では同氏の「人財マネジメント」による革新を取り上げます。
(後編はこちら)
会社概要
設立:1990年
社員数:97名
事業内容:自動車内装用フェルト(吸音材/緩衝材)、自動車内装用カーペット、家電用フェルト
URL:https://asahi-takaron.jp/
「中小企業家しんぶん」 2025年 9月 5日号より









