黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、旭タカロン(株)/(株)エー・ケー・テック(岩本慎一代表取締役、大分同友会会員)の取り組み(後編)を紹介します。
(前編はコチラ)
「人財マネジメント戦略」が土台
岩本慎一氏はトップとして最も力を入れているのは「人」だと言います。「経営指針書」には5つの「全社基本方針」が載せられていますが、第5の「持続的成長を実現するための、人財マネジメント戦略(採用・教育・人事考課・働き方改革)を着実に実行」が他の4つの戦略の土台と位置づけています。
新卒採用
採用面で力を入れているのが新卒です。人が足りなくなると中途採用することの積み重ねで従業員の年齢構成がいびつとなり、若手の入社による企業文化の刷新も望めませんでした。そこで、ホームページを改革し、若手人材に語り掛けるページを最初に持ってくるなど「人財」重視の姿勢をアピールしました。また、岩本氏は高等学校での企業説明に年2回出かけ、年2回高校生を企業見学に迎えています。企業説明では、反毛(はんもう)生産は大量廃棄される衣服の再資源化で、世界の課題であるSDGs達成を促進する仕事であり、フェルトの生産は生活に不可欠な車を快適性のある空間に変える価値ある労働であることを訴えています。また、社員成長のコースとして、グループ2社それぞれにマネジメント系とスペシャリスト系を用意し、全部で4種の職種から選択が可能で、必ず自分に合った仕事があると話します。このような努力の結果、2020年から毎年、高校か大学の新卒1名を連続して獲得し、これにいわゆる第2新卒者を加えると、5年で10名の若手人材の獲得に成功しています。
女性活躍推進宣言
大分県には女性が働きやすい職場づくり、環境整備、制度の導入などについて、企業・団体等が取り組みを宣言する「女性活躍推進宣言」という制度があり、グループ両社も20年に「宣言」を行い、家庭と仕事が両立できるよう短時間勤務の正社員制度を導入したほか、有給休暇取得率の向上などの働き方改革を推進しました。
大分県のホームページに「働く女性応援企業」を紹介するサイトがあり、本グループも取り上げられています。グループで事務の仕事をしていた母親に「うちで働いたら?」と誘われて娘(中学1年生と小学4年生の2人の娘を持つお母さん)が入社、15年間働いているケースや、グループに勤務している姉の勧めでパートとして入社し、今、時短型正社員として活躍する妹のことが紹介されています。母、姉が娘、妹に入社を勧める企業であることは、働きやすく、働きがいのある会社であることを証明するものです。
外国人労働者
インドネシアから10名、中国から3名の技能実習生が働いていますが、縫製作業は器用で日本人より優れていると岩本氏は高く評価しています。給与は日本人と異なりますが、日本人と分け隔てせず、生活で困っていることがあればバックアップし、米の無償提供もしています。
年2回の面接、人事評価
入社後の社員に対するマネジメントの中心になっているのが人事評価シートに基づく年2回の直属上司による面接です。人事評価シートは、業務に関する個人の目標とその達成度評価、職場別に決められた項目に関する行動評価から構成されています。
個人目標は、10分かかっていた作業を7分でするというように、できるだけ定量化します。個人目標は従業員の意向を基に直属上司の意見が加わって決めます。面談時に達成度に関して本人評価と上司の評価が突き合わされ、両者の評価が食い違うことは少なくないと言います。これは、従業員が自由に自分を主張できる風土があることの反映でしょう。行動評価についても同様に行われ、評価は昇給・昇格に反映されます。2020年からこの制度を始めましたが、本制度導入前に実施した全社員ヒアリングで出てきた課題である「頑張った社員が報われる」仕組みとして役立っています。評価基準がはっきりしているので社員は納得感を得られ、自分の改善目標が明確になるという効果もあります。
働く者から選ばれる企業に
「人財マネジメント」は、働く者から選ばれる企業にするため、働きやすさと働きがいの向上を優先する経営と言えます。そのための施策の代表例が女性活躍促進宣言ですが、グループではさらに今年の4月から完全週休2日制にしました(年間休日数105→121日)。岩本氏は「仕事と家庭が両立できる働く環境を整えないと若い人に選ばれなくなる。2直にして深夜労働も行い、仕事を受けただけ働いて稼ぐというような道は取らない」とします。ここには、働きやすさ・働きがいの向上を経営の目的として売り上げより優先するという考えが見られます。しかし、働く者から選ばれる企業にするには大きな課題があります。自動車部品業界は完成車メーカーを頂点とする下請け分業構造の中にあり、受け身型の受注にならざるを得ません。岩本氏はこの問題に対し製品力を一層強化し、直接の納入先への貢献度を高めると同時に取引力を高めること、また、フェルト製品の家庭や土木用など、自動車以外の用途開発をめざしています。このために、これまでの働き方改革をもとに全社員の知恵を結集すると言います。
会社概要
設立:1990年
社員数:97名
事業内容:自動車内装用フェルト(吸音材/緩衝材)、自動車内装用カーペット、家電用フェルト
URL:https://asahi-takaron.jp/
「中小企業家しんぶん」 2025年 9月 15日号より









