黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、協栄工業(株)(大賀豊文代表取締役、大分同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。
「おいしい水」「きれいな空気」を
協栄工業(株)は建築設備の設計施工と保守管理の専門企業で、いわゆるサブコンと呼ばれる企業です。サブコンは建設工事の元請けであるゼネコンから建物の設備工事を分担して請け負い、設備の企画・設計から施工管理までを行います。施工工事を実際に行うのは設備工事業者で、サブコンは施工の管理を行います。協栄工業の設備工事の分野は、給排水衛生設備・空気調和設備・消防設備などで、「おいしい水」や「きれいな空気」がある豊かな住環境の創造を使命としています。サブコンにはスーパーサブコンと呼ばれる大手ゼネコンと取引する全国ベースで活動する企業があります。多くは上場企業です。他方で地域のゼネコンと取引する多くの地場のサブコンがあり、協栄工業はその一員です。ただし、他のサブコンにはない強みを持っています。
顧客が味方に
第1は顧客を味方につけた営業です。保守管理まで行う同社は、年150件の新築・改修のほか、年1800件の修理・保守をこなしています。顧客は協栄工業に頼めばしっかりと修理・保守までやってくれると実感し、新築するときにはゼネコンに推薦してくれます。同社にとって顧客は単なる買い手ではなく応援団、宣伝塔です。大規模な宣伝活動を行えない中小企業にとって客の口コミが最大の武器と言われますが、同社も同様です。
企画営業
第2は企画営業です。施主から注文を受けたゼネコンは設計に取り掛かります。設計には意匠設計、機能設計、構造設計がありますが、ゼネコンが社内で全てを行うことはできず、一部を設計事務所に依頼します。協栄工業は機能設計を得意としているため、設計段階から協力を申し出ます。設計協力した案件はおのずと自社が受注することになります。同社はこれを企画営業と呼んでいます。製造業では顧客企業の外注担当部署にではなく、開発設計部門にアクセスできる企業が伸びています。建築業でも同じ原理が働いています。
豊富な技術陣
第3は、他のサブコンと圧倒的な差がある豊富な技術陣です。同社には1級管工事施工管理技士が25名おり、社員(62名)の約40%を占めています。当時社長の佐藤総1氏(現会長)が先頭に立って管工事の施工管理技士などの国家資格取得をめざし、全社員が勉強を始め、20名が受験したのが1987年、それ以来の積み重ねが分厚い技術者層を形成しました。
若手中心の社員
第4は、平均年齢37歳という社員の若さです。組織の年齢構成は25~29歳が一番多く(全体の27.4%)、上の歳になるにつれ少なくなるピラミッド型を形成しています。
日本建設業連合会資料によると、建設業(23年)では29歳以下が11.6%なので、協栄の人材の若さに驚かされます。これは長年の新卒採用継続の成果です。
同社は、1989年から高校・高専・大学の新卒採用を進めてきました。それまでは中途採用がほとんどでしたが、佐藤総一氏は「新卒の社員が全社員数の半分を超えると会社は変わる」と聞き、新卒採用を始めました。後述のように協栄工業は営業赤字に陥り、新卒採用を続けるにはつらい時期もありましたが、信念を貫きました。現社長の大賀豊文氏(22年1月就任)によると、新卒採用は水や空気のように当たり前のこととなっています。20年からの5年間の実績(大卒、短大卒、高卒計)をみても毎年1~5名を採用しています。コロナ禍においても新卒採用を中断しませんでした。
大分県内トップ
以上の協栄工業の強みは、大分県内の管工事において建設業者競争入札参加資格を有する企業(2025年度、616者)の中で、売り上げシェアトップとして現れています。また、経営事項審査(公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が必ず受けなければならない審査で、「経営状況」と「経営規模、技術的能力その他の客観的事項」について数値で評価するもの)でも616者中1位となりました。ただし、常に順調だったわけではありません。創業からの経緯を振り返ってみます。
創業からの経緯
協栄工業は1970年、佐藤総一会長の義理の父親により設立されました。設備メーカーに社員を出向させ技術を習得、77年にはプレハブ工法を導入し、画期的なコストダウンに成功しました。80年代中ごろからいわゆる「バブル景気」の波に乗って売り上げの伸びを加速、営業利益も伸ばしました。91年に「バブル景気」は崩壊しましたが、売り上げは伸び続け、84年度から99年度の間に売り上げを4倍にしました。
しかし、94年ごろから営業利益は減り始めました。このころは、売り上げ至上主義で利益率の低い仕事もとり、量をこなすため無駄の多い施工となり、売り上げは伸びたのに利益は減り、増えたのは社員の疲弊でした。
そこで規模の拡大ではなく中身の充実をめざす方針に転換しました。1999年ごろのことです。利益の少ない仕事は取らず、技術力も上げ、1つ1つの工事の利益率を上げることに注力しました。しかし、すぐには好転せず、2005年以降から2010年代初めまでは営業赤字に転落する年度も度々ありました(ただし経常赤字は2期のみ)。効果が現れたのは14年ごろからで、緩やかな売り上げの伸びと黒字転換が定着しました。特に、24年、25年は売り上げ、利益とも好調で、上記の通り大分県ではトップの経営成果を達成しました。協栄工業は中身充実への方針転換による再発展の過程を再生変革期と呼んでいます。中・後編ではこのためのマネジメントについて述べます。
会社概要
設立:1970年
社員数:60名
事業内容:総合設備業(管工事、土木工事、水道施設工事、消防設備工事)の設計施工と保守管理
URL:https://www.kyoei-os.co.jp/
「中小企業家しんぶん」 2026年 2月 5日号より









