連載 中小企業を働きがいのある職場に 
社員満足を経営理念とする若手中心の建設企業(中編) 
協栄工業(株) 代表取締役 大賀 豊文氏(大分)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、協栄工業(株)(大賀豊文代表取締役、大分同友会会員)の取り組み(中編)を紹介します。

(前編はこちら)

経営理念・経営方針=「社員満足」・「顧客満足」

 協栄工業の経営理念は「社員満足」で、理念を実現するための経営方針が「顧客満足」です。「社員満足」が第1で、「顧客満足」は「社員満足」の手段としているのが注目されます。

 この経営理念が協栄工業の再生変革期のマネジメントの柱になりました。当時社長の佐藤聡一氏(現会長)がこの理念を打ち出した背景に、サブコンの地位が低かったことがあります。現場では名前でなく「オイ、コラ」と呼ばれ、昼は仕事をさせてもらえず、夜やらされたそうです。佐藤氏は社員が「子どもにはこの仕事はやらせたくない」と話しているのを耳にし、社員が誇りを持てるように、「わが社の社員とその家族が物心両面でより豊かな生活をおくること」、つまり、社員満足の追求を経営目的に置くことにし、1996年に経営理念、経営方針を成文化しました。ただ、実行に移したいとは思いながらも、この時点ではまだ社内で発表するまでには至りませんでした。

経営理念の実行、規模より中身の充実を

 佐藤氏は98年に大分同友会の代表理事に就任、99年に経営指針成文化セミナーを担当することになりました。これが経営理念の実行を後押ししました。また、前編で述べたように、この頃は売り上げ至上主義で、売り上げは伸び続けていましたが営業利益は縮小し、社員は疲弊していました。今こそ「社員満足第1」を実行し、規模より中身の充実を図るときでした。佐藤氏は経営理念を発表し、いたずらに売り上げを増やして規模拡大を追求するようなことはせず、自社の実力にあった仕事量を確保した上で、みんなで工夫して社員の待遇改善、働き方改革、利益率向上など、中身の充実をめざすことにしました。

待遇改善

 経営理念を引き継いだ現社長の大賀豊文氏は、年々待遇改善が必要と考えています。同社では従業員代表制に基づく社員代表と毎年2~3月、意見交換を2~3回行っています(労使懇談会)。社員代表は毎月、社員にアンケートをとって要望をまとめ、提案書を労使懇談会に提出します。社員満足のためには社員の声を聞くことを第1にしなくてはなりません。結果は就業規則に反映されます。奨学金返済手当、住宅サポート手当、遠方現場手当、資格手当、土曜出勤手当などが設けられました。土曜出勤手当については、一般に週休2日制の場合、日曜日は35%、土曜日は25%の割増賃金が支払われます。しかし、協栄工業では社員にとって土日はいずれも大事であることから、土曜日も35%の割増賃金としています。就業規則は社内ネットに載せ(改正前と改正後)、誰でも見ることができます。労使懇談会では、会社側も言うべきことは言います。この労使関係には大賀氏のトヨタ自動車勤務時代の経験が生かされています。

先行的賃金引き上げ

 最近、待遇改善面で注目される動きがありました。協栄工業では26年1月から基本給を一律3万円アップします。年度途中の変更ですが、これで同社の初任給は大卒25万円 、高専卒23万円、 高卒22万円となります。これは大分県の大企業を含む建設業の平均水準と思われますが、注目されるのは、基本給3万円アップは賃金の先行的引き上げを意味することです。この財源は賞与で、賞与(直近では5・5カ月支給)のうち3カ月相当分の18万円を、6カ月×3万円の給与分に振り替えます。賃上げの原資が賞与ですから、賞与を含めた6カ月間の総所得は変わりません。しかしながら、賞与は会社の業績に連動するため、会社の業績が上がれば賞与を減らさずに済み、総所得は純増となります。この意味するところは、会社の総付加価値額が上がったから、付加価値の分け前である賃金を上げるのではなく、付加価値額が増える前に賃金を上げ、それが総所得増につながるように付加価値額を増やす(=賞与の維持)ということです。生産性上昇・付加価値増額に付随するものとしての賃上げでなく、賃上げのための生産性上昇・付加価値増額という考えに立ち、賃上げを先行実施する点が普通の経営と異なります。これは労働条件を優先する経営ですから、労働条件基準原理(あるいは労働条件ファースト)と呼べます。大賀氏は「利益が出たら給与が上がるよという考えではだめだと思う。先に給与を上げる。そしてみんなで頑張る」と言っています。

価格転嫁について

 中小企業は賃上げ原資を獲得するため、コストの価格転嫁が必要とされていますが、大賀氏は、協栄工業は価格交渉力があるため価格転嫁はできていると言います。同社の技術力、提案力も価格交渉力を高めていますが、最大の要因は前編で触れた同社の若手社員の層の厚さです。建物の中で最初に壊れ出すのが設備ですが、同社は若手社員が何十年も保守を続けられるので、顧客は安心して発注できることが大きな強みとなっています。このため、協栄工業は価格競争に巻き込まれることはありません 。

 協栄工業は経済的報酬を高めているだけではありません。職場を働きやすく、働きがいのある場にする努力もしています。後編ではこのことを述べます。

(後編に続く)

会社概要

設立:1970年
社員数:60名
事業内容:総合設備業(管工事、土木工事、水道施設工事、消防設備工事)の設計施工と保守管理
URL:https://www.kyoei-os.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2026年 2月 15日号より