連載 中小企業を働きがいのある職場に 
人材の集まる地方企業(前編) 
(株)タテイシ広美社 会長 立石 克昭氏(広島)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)タテイシ広美社(立石克昭会長、広島同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

広島県府中市に本拠を置くタテイシ広美社は、有名外食企業や小売チェーンなどを顧客とする電子看板などの製作で急発展してきました。その発展を振り返ってみます。

創業期

中学生のときに経営者への夢を持った創業者の立石克昭会長は、絵が好きだったことから看板屋をめざすことに。高校卒業後大阪の小さな看板屋などで6年間修行した後、1977年に24歳で故郷、府中市で看板業を開業しました。初め仕事はゼロ、さびているベランダを見つけてはペンキを塗らせてもらうなど、ペンキの仕事ならば何でもやりました。一緒に働いた妻は体中ペンキだらけになりながらも、「私が汚れても他がきれいになっていく。この仕事は楽しい」と言ってくれました。その言葉に立石氏は事業を絶対成功させようと思いました。

手書きからパソコンへ

親戚や友人の伝(つて)で仕事は徐々に増え、自信を持ち始めた開業10年目ごろ、パソコンで看板用の字が書けるように。そして500万円かけてパソコンでシートに書いた文字を切り抜く「コンピュータ・カッティング・マシン」を導入しました。これならば未経験の女性でも扱えると考え、自分は営業に徹し、作業は女性社員にやってもらうことにしました。時代変化に応じた体制変革です。経営者が作業服を脱ぎ捨てたことで他の小企業にない営業力をつけました。手書きを望むお客さんを説得しながら、仕事を増やし、時代の流れに乗ったと思ったその時、バブルがはじけました。1992年、売り上げは一挙に30%も減り、やむを得ず従業員2人に辞めてもらいました。

電光掲示板へ進出

「同じことを続けていたのではもうだめだ」。そのとき思い出したのは、ある勉強会で聞いた、自分の仕事を定義すべきということ。「看板業」ではなく「情報伝達業」がその時の答えでした。そうしたところ、ある大手家電メーカーの電光掲示板の販売店募集の話を聞きました。これも「情報伝達業」だと考え、参入しました。立石氏はこの定義づけが今に至る種々の分野への進出の礎になったと言います。

製品を車に積みセールスをしていると、お客から度々「もっと大きいもの」、「縦長のもの」と、メーカーの規格にない製品を欲しがられました。図面にしてメーカーにFAXしても一向に返事がない。電話をするとたった1台の特別の注文は応じられないという答え。「小ロット多品種の製品を作れるのは中小企業だ、オーダーメードの電光掲示板をやろう!」とひらめきました。顧客密着で得られる需要情報=「市場のつぶやき」が新市場の存在を知らせてくれました。1994年ごろのことです。

「最初の顧客」を味方に

オーダーメード製品は苦労の末、ある町に納品されました。その町でドーム運動場ができるという話を聞いて、企画課長に会いました。「設計はもう終わっている、今からでは遅い」と言われましたが、あきらめきれず、町長にFAXで直訴。電光掲示板の用途はもちろん、地元の雇用創造に貢献したいという企業の夢も書きました。2、3日後もう1度説明に来るようにとの電話が入り、町長室で説明したところ、町長は「入れよう」と言いました。企画課長に「予算はどうする?」と聞かれても、町長は「他の設備をやめてこれにする」と、導入が決定しました。名もない中小企業が信用を得るには経営者の熱意が決定的に重要です。立石会長は経営者の熱意を備後弁で「いこる」と表現します(これについては中編で触れます)。町での使用が信用となり、電光掲示板の受注が伸びました。知名度の低い中小企業の市場開拓には、このように「最初の顧客」を味方につけることが重要です。

大手企業の需要に対応、全国的に「見える化」

タテイシ広美社の発展は急速で、2016年に10億円を突破、26年(予測)は25億円。売り上げ構成は(1)電子看板9・5億円、(2)アナログ看板9・5億円、(3)EV充電器関連6億円です。看板では電子看板の伸びが大きく、全国のケンタッキー・フライド・チキンのドライブスルー店などに設置しています。EV充電関連事業は設置から表示までを一貫して担える体制が評価され、全国への導入が進んでいます。こうした新展開は、2013年、会長の長女とその夫(専務と現社長)が後継経営陣として入社、2017年に社長交代が行われ、次世代による成長戦略が本格的に動き出したことが背景となっています。現社長はそれまで培った大手広告会社での国内外の営業経験、知見やネットワークを生かし、従来の地域中心の営業から全国規模の案件獲得へと舵を切りました。最初に取り組んだのが、オリンピックや万博といった国家規模プロジェクトへの挑戦、続いて上記大手企業への展開となりました。

大手企業を顧客とすることでタテイシ広美社の製品が全国的に「見える化」し、それがまた顧客を呼ぶ好循環が生まれています。

タテイシ広美社の強み

第1に、デジタルでもアナログ分野でも個々の顧客のニーズにフル・オーダーメードで応えられること。第2に、社内にデザイナー、設計士、システムエンジニア、職人をそろえ、企画開発から設置まで一貫実施できること。第3に、グローバルな調達力。オーダーメードでも大手企業との取り引きは生産を大規模化させます。同社は中国をはじめ海外企業に設計図を貸与して部材を大量に調達しています。調達先は商社依存でなく、2代目経営陣が海外駐在経験や語学力を生かし自ら開拓、直接交渉することで、コストと品質の両立を実現しています。通常業務はパート社員を含めたメンバーが主体的に海外企業とやり取りをしています。

当初は資金繰りに苦労したこともありましたが、創業以来赤字は1度もありません。

中編に続く

会社概要

創業:1977年
社員数:120名
事業内容:各種広告看板企画・設計・施工 各種塗装工事 LED電光表示システム設計・製作
URL:http://www.t-kobisha.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2026年 5月 5日号より