黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)タテイシ広美社(立石克昭会長、広島同友会会員)の取り組み(中編)を紹介します。
(前編はこちら)
タテイシ広美社の従業員数は、2006年度に19名だったのが、20年後の現在では140名(パート含む)と7倍以上です。しかも平均年齢は33歳、男女比は半々で、経歴も多彩です。その理由は働きやすさと働きがいを追求するマネジメントにあります。
就業時間の自由度が高い
働きやすさ推進のため、残業時間の削減をはじめ、年間休日もかつての90日前後から115日に増やす努力をしてきました。月2回、就業時間内に社内に整体師を呼んで施術希望者は受けられるようにするなど、健康経営にも注力しています。また、「ゆっくり出勤」「早出出勤」「休憩短縮コース」などシフトを20~30種類設けたことで、希望に合った働き方ができ、この働きやすさが、女性社員が半数を占める要因になっています。
相互評価の委員会活動
同社は委員会活動を重視しています。事業の急拡大で組織のまとまりが損なわれる局面が出てきたため、業務横断的な委員会組織を形成し、1人1人が全社的視点で活動できるようにしました。「通常業務で手一杯」などの不満で初めはうまくいきませんでしたが、社員が活動内容を相互評価し、それを人事評価に反映する仕組みにしたところ、委員会活動は「やらされるもの」から「自分たちの会社をよくするための活動」へ変わりました。
各委員会の取り組みは社内のモニターで共有され、全社員が評価に参加します。現在では、5S、リスキリング、社員交流、DXなど8つの委員会があります。主任クラスの若手が委員長となり、ドラフト会議で委員を決めるなど、現場主導の運営が定着しています。
社員1人1人が委員会それぞれの視角から改善を構想し、自ら実行する。命じられてではない自分の考えに基づく仕事は楽しいため、社員は単なる業務の担い手ではなく、会社をよりよくする主体として機能し始めています。
また、立石理恵専務は、かつて社内にあったぎこちなさが委員会活動を通じた横のつながりにより解消され、社員同士の会話や相互理解が深まったと語っています。仕事を通じたよき関係の形成も働きがいを高めます。
リスキリング
技術を積極的に取り入れるため、社員のリスキングも推進しています。その中心が「技術伝承委員会」。デザイン、図面の読み方やハンダ付けの技術、施工技術などの社内講習を提供しています。社員が相互に講師となり、自由参加の勉強会を定期的に開催、マニュアルや動画教材も作成し、「見て覚えろ」ではなく、誰もが技術を習得できる仕組みを構築してきました。人材育成が競争力を生み出すと同時に、誰でも持っている成長への欲求を満たし、働きがいも生み出しています。
労働そのものからの喜び
組織運営がもたらす働きがいだけでなく、労働そのものが生み出す働きがいも見られます。部署は異なっても社員に共通しているのは、製品がオーダーメードのため仕事にいつも未知の部分への挑戦があること。頭の中での構想が体を働かせることにより目に見える形になったとき、人は誰でも達成感を得ますが、挑戦を伴う労働の達成感は特に強い。しかも、店舗や企業の「顔」をつくるのが仕事で、誰にでも見てもらえるから達成感は倍増します。オーダーメードのため仕事内容も多様です。多様な仕事ができるのは人間らしさの発揮であり喜びとなります。多様な労働は学習の機会を与えるので、成長の喜びも生み出します。
情報の発信
タテイシ広美社も12、3年前はハローワークに求人しても反応はなく、「一体、人はどうしたら来てくれるのか」という状況でした。これを変えていったのが人材紹介会社などへの積極的な情報発信でした。求人票を出すだけでなく、企業としての夢を語り、企業見学に来てもらえるような密な関係を作りました。もう1つはホームページによる情報発信です。同社では、新聞・雑誌・行政などの取材記事を積極的に掲載し、外部からの評価や取り組み内容を可視化してきました。これにより、求職者が検索を通じて同社の情報に触れる機会が増え、「どのような会社か」を事前に理解した上で応募につながる流れが生まれています。
どんな人材が活躍しているか
社員の平均年齢が若い中小企業においては新卒採用の積み重ねの結果という場合が多いですが、タテイシ広美社では、いわゆる「第2新卒」より経験を積んだ大企業勤務経験者の中途入社が多いです。大企業に入社したがトップダウンで仕事をしなくてはならず、仕事の幅も狭い。裁量権のある中小企業で自分の能力を発揮したいというのが入社パターンの1つです。地方都市に魅力を感じ、地方で仕事をしたい人の受け皿にもなっています。地方での仕事でも全国に展開しているので、「都落ち感」はありません。正社員の4分の1がIターン人材です。また、年齢やこれまでの職種にとらわれずに採用しているため、豊かな人生経験が周囲によい影響を与える人材にも恵まれています。
土台にあるもの
立石会長は「いこるところに人は集まる」と言います。「いこる」は備後(びんご)弁で、炭が赤く「熾(おこ)る」こと。いこっている炭火の上に肉や野菜が集まるように、熱い思いを持っている経営者に人や仕事が集まる。「いこる」があるべき経営者としての理念とすると、企業としての経営理念が「情報伝達業」。事業に関するこの定義づけがタテイシ広美社の「看板屋」から先端技術分野への飛躍をもたらしました。同社は今、若い経営陣の時代に移りつつありますが、「いこる」「情報伝達業」は同社の土台であり続けます。
(後編に続く)
会社概要
創業:1977年
社員数:120名
事業内容:各種広告看板企画・設計・施工 各種塗装工事 LED電光表示システム設計・製作
URL:https://www.t-kobisha.co.jp/
「中小企業家しんぶん」 2026年 5月 15日号より










