連載 中小企業を働きがいのある職場に 
人材の集まる地方企業(後編) 
(株)タテイシ広美社 会長 立石 克昭氏(広島)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)タテイシ広美社(立石克昭会長、広島同友会会員)の取り組み(後編)を紹介します。

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コミュニティ・スクールの支援

立石会長のもう1つの顔は、府中市立府中明郷学園のコミュニティ・スクールの学校運営協議会会長。同校は9年間の一貫カリュキュラムで運営される「義務教育学校」で、14年度にコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の指定を受けました。これは学校と地域住民などが力を合わせて学校運営に取り組むもので、運営協議会は学校への単なる応援団ではなく、校長が作成する学校運営の基本方針を協議、承認し、その実現に全面的に協力します。地域の声を積極的に生かした特色ある学校づくりが狙いですが、全国的には校長の方針を「シャンシャン」で承認するなど制度の形骸化も見られます。一方、明郷学園では、校長の方針に対し、意見が活発に交わされます。ある校長経験者は、「基本方針の説明後、司会者の質問はありませんかの声に、協議会の委員のほとんどが一斉に挙手したことに衝撃を受けた」と述べています。

キャリア教育

同校のコミュニティ・スクールの特徴は、1~9年生を通じたキャリア教育を中核として自ら課題を見つけ、学び、行動する人格の育成をめざすことです。立石氏はキャリア教育を行いたいという当時の校長に頼まれ、コミュニティ・スクールの準備段階から関わり、制度を導入した2014年度に運営協議会会長に就任しました。

キャリア教育は、身近な人や地域環境の学び(1、2年生)、和紙作りの体験(3年生)、地域の防災や福祉活動の学び(4年生)、1年を通じたコメ作りの体験(5年生)、地域企業での実際の仕事の学習(6年生)、企業で働き、課題解決の提案(7年生)、模擬会社LinkSの経営(8年生)、9年間を振り返り、地域に恩返しする「めいきょう祭」の企画・運営(9年生)――というように次第に高度となる社会学習を行っています。

模擬会社、「失敗させよう」が合言葉

キャリア教育のピークが模擬会社の運営で、全国でも明郷学園しか行っていません。19年度開始ですが、現在は21年度設立の「LinkS(リンクス)」社を受け継いでいます。経営理念は「お客様、地域と会社がつながって一丸となり、社会に貢献する~自ら考え、判断し、行動することで、笑顔と感謝の虹をかける~」。経営理念の検討、商品開発・販売などは生徒自身が行います。立石氏は校長から会社を設立したいという相談があったとき、校長が定年退職後、自分の会社を設立する相談かと思いました。生徒に会社をつくらせたいと聞き、中学生の時に経営者になりたいと思った立石氏は気持ちが入りました。教員に経営経験はありません。立石氏をはじめとする企業支援チーム8人(全て広島同友会会員)が支えました。商品開発、経理など、相談を受けて生徒にアドバイスをする。担当の先生にもアドバイスする。立石氏は模擬会社の社長、副社長(2人)は決まったが部長が決まらないとの相談を受けました。模擬会社には商品開発部、営業広報部、経理部があります。社長、副社長が決まっているならば彼らに任せるべきとしたところ、社長・副社長が「部長面談」をやっていました。

模擬会社教育での先生たちとの合言葉は、「失敗させよう」「教えない教育」。開発製品は地元の人は買ってくれます。しかし、経営者は売るのは作ることの何倍も難しいことを知っています。立石氏は生徒が売るのは簡単と思っているようなのでまずいと感じました。25年度のLinkSの商品はファイルとバインダーを組み合わせた「ファインダー」。デニム生地の製品には生徒たちデザインの企業名のロゴが入り、綴じやすいようにファイルをカットするなど工夫が施されています。東京への修学旅行の際、東京神田小川町にある府中市のアンテナショップで売ったところ、10個しか売れなかった。近くの駅で配ったチラシを受け取ってくれる人も少ない。生徒たちは「東京の人は冷たい」と分かった。この失敗体験が重要です。

「引継ぎ式」

3月11日、8年生(28人)から7年生(26人)へのLinkSの引継ぎ式が行われました。

次期LinkSを担う社長、副社長、部長はすでに生徒の話し合いで決まっています。社長になれず残念で泣き出す生徒もいるそうです。現社長・副社長による「LinkS」の意味が説明されます。Linkはつながり、Sはsmileと複数のsのこと。経理部からは黒字決算の報告もありました。7年生全員による決意表明後、グループに分かれ、生徒間で質疑応答へ。社長・副社長グループでは、現社長が身に付いた力を問われ「臨機応変に対処する力」、緊張したことはないかと問われ「100ではなく80でよいと思うことが大事」と答えていました。まるで人生経験を語っているようで、急速な精神的成長がうかがえます。

なお、引継ぎ式で目立ったのは、新旧社長・副社長6人中5人が女子、新旧部長も女子が多かったこと。働く条件が整えば女性が実社会でも力を発揮できることを示しています。

中小企業家の力

日本で唯一の模擬会社教育は中小企業家の協力の賜物です。中小企業家は、第1に地域貢献意欲が強く、第2に、現場に近いところで経営に携わっているため、生徒へ具体的なアドバイスができ、第3に、単なる利益追求でない地域貢献などの経営理念に基づく姿勢が教育に適合しています。模擬会社教育の成功は中小企業家の経済面に限らない、人材育成を通じる地域社会建設の高い力を示しています。

会社概要

創業:1977年
社員数:120名
事業内容:各種広告看板企画・設計・施工 各種塗装工事 LED電光表示システム設計・製作
URL:https://www.t-kobisha.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2026年 6月 15日号より