連載「今月の経営ヒント」労働基準法大改正のポイント(後編) 
社会保険労務士法人レイバーセクション 代表 藤浦 隆英氏(東京)

 経営環境が大きく変化する中、法改正や制度変更への的確な対応が求められています。新連載「今月の経営ヒント」では、同友会会員の専門家が、経営に役立つポイントを分かりやすく解説。第2回は「労働基準法大改正のポイント」(後編)です。

(前編はこちら)

労働基準法改正の具体像はまだ確定していません。それでも、中小企業が準備を始めるべき理由があります。今回の改正論議で問われているのは、就業規則の文言よりも「今の人数と仕事の回し方で、社員の健康と生活を守りながら事業を継続できるか」という経営そのものだからです。

まず勤怠データを点検します。(1)最大連続勤務日数、(2)退勤から翌出勤までの時間、(3)休日出勤と振替休日・代休の実態、(4)月45時間超の残業者、(5)36協定の特別条項の利用状況を確認します。13日超の連勤禁止や勤務間インターバルが制度化されれば、繁忙期を休日出勤で乗り切る、深夜まで働いた社員を翌朝通常どおり出勤させる、といった運用は見直しが必要になります。

次に規程と制度です。法定休日は明確か、休日振り替えのルールは実態と合っているか、変形労働時間制を適切に活用できているか、時間外の電話・メール、副業・兼業、年休取得時の賃金計算なども確認します。週44時間特例を利用している事業場では、週40時間への移行を想定したシフトと人件費も試算しておきたいところです。

しかし、ここで「法改正対応=就業規則改定」としてしまっては不十分です。同友会の『働く環境づくりの手引き』かは、働く環境を経営指針の実践と結びつけ、10年後の働く環境を社員と語り合い、現状確認、未来年表、付加価値(生産性)向上計画、就業規則の改正計画へとつなげています。さらに、社員と共に見直し、運用することまでを一連の取り組みとしています。

長時間労働や連勤の原因を掘り下げれば、特定社員への属人化、欠員、育成不足、非効率な業務、取引先からの急な依頼や短納期など、経営課題が見えてきます。標準化、多能工化、DX、採用・共育、外注の活用に加え、時には価格・納期の交渉や「やめる仕事」を決めることも必要です。働く環境の改善には、その原資となる付加価値と利益を生み出す経営計画も欠かせません。これはまさに、経営指針を具体化する作業です。

そして重要なのは、社員と共に考えることです。「労使見解」は、労使が対等な立場で話し合い、経営者が会社の現状や考えを説明するとともに、社員の意見や感情を正しく受け止める努力を求めています。労働時間や休日は社員の生活にも直結します。どうすれば生産性と働きやすさを両立できるのかを社員と話し合うことが、実効性ある制度につながります。

高市政権が進める制度の柔軟化も、単に「もっと長く働けるようにする」と捉えるべきではありません。柔軟な制度を生かすためにも、本人の選択、健康確保、長時間労働防止、そして労使の十分な話し合いが重要になります。

経営指針は作って終わりではありません。社員と理念や将来像を共有し、その実現にふさわしい働く環境を共につくる。今回の法改正を、「人を生かす経営」の総合実践を一歩進める契機としたいものです。

〈プロフィール〉

藤浦 隆英(社会保険労務士法人レイバーセクション代表/特定社労士)
2012年社会保険労務士登録。中小企業向けに人事労務トラブル対応、就業規則作成、人事労務DD、手続き業務などを行う。東京都社会保険労務士会理事、中同協経営労働委員会副委員長、東京同友会理事。

「中小企業家しんぶん」 2026年 9月 15日号より