連載 仕事を通じて人格を形成する(前編) 
(株)アルカディア 代表取締役 春原 直樹氏(長野)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)アルカディア(春原直樹代表取締役、長野同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

事業分野

(株)アルカディアの事業の第1は大学や議場などで使われる音響や映像のシステム機器や通信機器などの製作で、売り上げの4割を占めます。発注者は東京の複数の機器メーカーですが、4割中の3割はT社への売り上げです。T社は後述のとおりアルカディアの創業と深く関わる企業です。第2は、各種の産業用機械で上田市界隈の機械メーカーから受注しています。上田駅新幹線ホームの稼働柵ドア部分とその制御盤、ペットボトル用のブロー成型機などがその例です。売り上げの6割を占めます。

両分野とも多品種少量生産で、ロットは1個か多くて10個、それを第1の事業では、加工図面の製作→板金加工→塗装→組立・配線と一貫生産しています(第2の事業は図面支給)。このために多様な製品を責任を持てる品質と短納期で顧客に提供できます。音響・映像機器に関しては外観図の受領から1週間で完成させることもあります。春原直樹社長はこれが可能なライバルはいないと自負しています。必要な工程が社内にそろっているからこそできることです。このような強みのため、価格転嫁力も強く、上昇している原材料価格を時価で販売価格に転嫁できています。

工程一貫化に視点を据えてアルカディアの歴史をたどってみます。

創業へ

創業者は現会長の松井利光氏。上田千曲高校の電気科を1962年に卒業、当時高卒者は「金の卵」と言われ、同校卒業生は一流企業に就職し、上田を発っていきました。松井氏は父親が事故で体が不自由になったため上田の企業に就職しましたが、人材のほしい企業から頻繁に声がかかり、気がつくと7社を転々としていました。「何を考えているんだ」と叔父に怒られたといいます。

その頃、勤務していた企業の顧客から、松井氏に「こんなものがあればよいのだが」と課題を提示され、同僚と共にその機器を開発しました。生徒の理解度を示すもので、教育現場で無電源で使えました。曲折を経て、この機器の採用を決めたのは、やはり勤務会社の顧客だったT社でした。同社との取り引きが決まり、2人は独立開業しました。松井氏が社長、同僚が専務、社名は「アルカディア」としました。ネームリストの最初に現れるアで始まるものがよいだろうと辞書で調べたら、理想郷を意味する「アルカディア」が出てきて、これに決めました。1983年、松井氏39歳の時でした。

取引先の信頼獲得、工程の拡大

T社に納品を始めましたが、当初は順調だった売れ行きは悪くなり、欠陥品も出してしまいました。松井氏は回収し、手直しをするつもりでしたが、専務は受入検査をして受領したのだから手直しの義務はないとの考えで対立、専務はアルカディアを飛び出しました。松井氏はアルカディアの名を残したいとの一心で無給で働き、3年間で回収・手直しを終えました。

この松井氏の対応を評価したT社は「うちにはこういう仕事があるがやる気はあるか」と声をかけました。松井氏は直ちに応じました。仕事はプリント基板の回路設計で、週1回同社に通い、初めのうちは20万円、次は30万円、そのうちに50万円と受注金額が増えていきます。やがて、機器の組み立て配線業務も依頼されるようになりました。組み立てる板金部品(筐体(きょうたい)と部品)は支給されていましたが、T社は板金製品を送るのは空気を送るようなものだから、アルカディアで調達できないかと要請してきました。当初は地元で板金加工を頼みましたが、仕上がりが悪く内製化を決断、1990年に精密板金工場を建設しました。資金は国民金融公庫(現日本政策金融公庫)から1億円借りました。T社は板金加工の設計も要請、これにも応じました。この顧客ニーズに思い切って応えたことがアルカディア発展のきっかけとなりました。

2002年入社の春原直樹氏の社長就任は2019年。2代目社長によりさらに工程が拡大しました。25年塗装工場を稼働。塗装の内製化で製造工程は、板金加工→塗装→組立・配線となり、リードタイムの縮小、作業効率の向上、経費の大幅削減が実現しました。春原氏は既存工程についても革新投資を行い、コロナ禍の影響下の21年に事務所と板金工場を拡大・新設しました。社員が愛着を持てるよう社屋のレイアウトは社員による実行委員会が決めました。こうして、アルカディアは2代の社長の手により、多品種少量製品の一貫生産体制を最新の設備でもって構築したのです。

販売力の向上、量産分野への進出が課題

春原氏は、生産能力は格段に拡充したものの、それを十分に生かす販売力が不足していると言います。売り上げは顧客による顧客の紹介や先方からの問い合わせに依存し、能動的な営業活動を行っていませんでした。営業部門の確立が必要と考え人材を外に求めましたが見つからず、ハローワークのアドバイスで「65歳以上の営業経験者」を募集したところ、大きな反響がありました。その中から営業が大好きで飛び込み営業もいとわず、人柄もよいイメージ通りの人を選ぶことができました。その効果はすでに売り上げに出ていますが、この人材に営業強化の下地と方向を作ってもらうつもりです。

今まで手掛けなかった量産にも乗り出すべく、今期すでに1個着手しました。現在の多品種少量分野は売上が平準化していないという問題があります。量産品と多品種少量製品でもリピートが多いものを手掛け、現在の2事業分野に並ぶ第3の事業分野に育て上げます。

(後編に続く)

会社概要

創業:1983年
社員数:33名
事業内容:精密板金加工、電子機器、制御機器の開発・設計
URL:https://www.arcadia-ueda.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2026年 10月 5日号より